Pete LinforthによるPixabayからの画像
AI活用のために政府が本気で動き出した
政府が個人情報保護法の改正案をまとめたという報道を目にした瞬間、私は思わず机の上のコーヒーを置いて深く息をつきました。
「人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実」など、不当な差別や偏見につながる可能性のある要配慮個人情報でさえ、統計目的であれば本人同意なしに利用できるようにするという方針が示されたからです。
病歴や犯罪歴といったセンシティブな情報をAI学習に活用する際のハードルを下げる狙いがあるわけですが、これは日本のAI政策と社会の信頼のバランスをどう取るかという難問に、真正面から向き合う局面が訪れたことを意味しています。
この問題に関しては今年5月、「AIの活用に避けて通れない個人情報保護、世界の潮流と日本の現状 小川久仁子・個人情報保護委員会事務局審議官インタビュー」として、JBpressに書きました。
社会制度がAIのために、ここまで明確に動いた瞬間はそう多くありません。特に今回の改正案は、経済界の強い要望が背景にあるとされています。
AIの開発には大量のデータが必要であり、本人同意の取得が実務上のボトルネックとなっているという声は確かに多く聞きます。
特に製薬会社や金融機関など、データを扱う企業ほど、法規制と現場実務のギャップに悩んでいました。
例えば国内大手の製薬企業は、副作用の傾向をAIで解析する際、匿名化の手間と同意取得の煩雑さが研究速度を大幅に遅らせていたといいます。
そうした現場の声を受け、今回の法改正案は「AI時代のインフラ整備」として位置づけられているのでしょう。
ただし、内容を冷静に読み解くと、単なる規制緩和では済まされない複雑な状況が見えてきます。
統計目的に限るとはいえ、要配慮個人情報を本人同意なしで取得できるというルールは、国民の信頼を揺るがす可能性も秘めているでしょう。
法律は3年ごとの見直しが原則であり、今回は個人情報保護委員会が2023年から議論を続けてきた結果の一つですが、制度の影響は長期的に国民生活へ及びます。