京都府南山城村にある現代の土葬墓地(著者撮影、以下同)
目次

(鵜飼秀徳 僧侶・ジャーナリスト)

 土葬墓地の整備を巡って、各地の自治体が揺れている。

 大分県では、ムスリム向け土葬墓地の計画が住民の反発によって頓挫した。宮城県では、県主導で土葬墓地構想が検討されたものの、議会などが難色を示し、知事が白紙撤回した。国会でも取り上げられ、「土葬を原則禁止としてよいのでは」などと発言する議員も出現している。

 土葬排除の動きが加熱しているが、忌避されるべき埋葬法なのか。「日本人と土葬」について、宗教と習俗の面から述べていきたい。

 宮城県の村井嘉浩知事は2024年10月の県議会で、土葬墓地整備の検討を始めると表明した。背景には、県が人手不足対策として外国人労働者の受け入れを進めており、ムスリムらから「土葬できる場所がほしい」と要望が出ていたことがある。

 村井知事は2025年3月の定例会見でも「日本はもともと土葬文化である」「神道は土葬が基本で、キリスト教も本来は土葬がベース」などと述べ、知事自身は土葬容認派だったことがわかる。

 だが、2025年9月の県議会で状況が一変する。「県民から不安の声が多く寄せられた」「墓地設置の許可権限を持つ全ての市町村長が難色を示した」として、知事は計画を撤回したのである。

 また、大分県日出町でもムスリム墓地の計画が持ち上がったものの、頓挫した過去がある。

 当地では立命館アジア太平洋大学(APU)が開学するなど、近年、ムスリム人口が増加しており、日本人と外国人のムスリムが国際結婚し、日本で暮らして亡くなるケースや、外国人技能実習生、留学生が国内で病気や事故などで亡くなる場合などが想定されている。九州には一般向けの土葬墓地がひとつもなく、墓地整備が急務になっていた。

 そこで別府ムスリム教会が2018年に土葬用地を取得し、約100区画の整備を計画した。住民説明会を重ね、条例適合の前提で町長の許可を目指したが住民側が反発。2024年の町長選では反対派の知事が当選し、町有地売却の中止が決まった。

 2025年11月27日の参議院厚生労働委員会では、参政党・梅村みずほ議員が土葬墓地整備問題を取り上げ、「感染症蔓延などの歴史があった。日本は原則火葬」「周辺住民から地下水、農業用水への影響を懸念する声、墓地が呼び水となってムスリムの集住を招くという懸念の声が届いている」などと問い質した。そして「墓地・埋葬等に関する法律(墓埋法)」を改正して、土葬を原則禁止にすることを提案した。

 こうして見ると、人々の土葬に対する忌避感はかなり大きいようだ。「土葬が気持ち悪い」という、精神衛生上の懸念はわからぬでもない。特に大都市部での潔癖主義が、「死(死体)」を遠ざけてしまっていると思う。