課題は「AI」と「新製品」

 このタイミングで後継者計画が本格化している背景には、アップルが直面する課題がある。

 第1に、AI開発競争での出遅れだ。

 FT紙が指摘するように、米アルファベット(グーグル)や米マイクロソフト、米エヌビディア(NVIDIA)といったAI分野で先行する企業がAIへの巨額投資で企業価値を急伸させる中、アップルは同分野で目立った先進性を示せていないとの批判にさらされてきた。

 AI責任者の退任やデザイン人材の流出は、この苦戦に拍車をかけかねない。

 第2に、新製品カテゴリー創出の停滞だ。ウィリアムズ氏が開発を主導した腕時計型端末「Apple Watch」以降、市場を席巻するような革新的な新製品を生み出せていないとの見方もある。

 クック氏は前任のジョブズ氏が「製品の人間(product guy)」と評されたのに対し、自他ともに認める「オペレーション(業務)の人間」だ。

 その経営術の真骨頂は、複雑な政治・法律問題(2025年の関税問題やグーグル検索契約を巡る訴訟など)を巧みに回避し、巨大企業の利益を確実に積み上げる点にあった。

 しかし、AIが技術革新の主流となり、次なる成長ドライバーが求められる中、ターナス氏(ハードウエア部門トップ)が選ばれれば、それはアップルが「オペレーション主導」から、再びジョブズ時代のような「製品(ハード)主導」のイノベーションへと舵を切ろうとする意志の表れかもしれない。

発表は2026年早々か

 クック氏の具体的な退任時期は未定だが、FT紙は早ければ2026年にも退任する可能性があると伝えている。

 発表時期について、各メディアは重要な年末商戦の業績を含む1月下旬の決算発表より後になるとみている。

 その後の早い時期(2026年序盤)に新体制を発表すれば、6月の年次開発者会議(WWDC)や9月の新型iPhone発表といった主要イベントを前に、新しい経営陣が体制を整える時間を確保できるとの見方だ。

 クック氏は2023年11月のポッドキャストで「アップルにいない自分の人生は想像できない」と語っていたが、後継者計画は着実に進んでいる。

 誰が次期CEOに就任するにせよ、4兆ドル企業の舵取りと「イノベーションの再加速」という重責を担うことになる。

 (参考・関連記事)「アップル、4兆ドルへの軌道修正 トランプ関税・グーグル訴訟の「二大危機」回避したクック氏の経営術 | JBpress (ジェイビープレス)

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