人は生活経験を欠く抽象概念を理解できない

 もう一つこんな実例を教えてもらいました。モニター校になってもらっている菅生学園初等学校、下野祐輔先生がごく最近、小学2年算数の教室で体験された実例です。

 小学2年算数では「図形」が教えられます。

 逆に言うと1年生の間はほとんど「図形」は教えられません。もっぱら「算」「数」で、かずの計算ばかりが扱われます。

 小学2年で、初めて「三角形」が出てくるとき、教科書には「頂点」「点」「かど」「角」などの表記が並列されており、何が何だか分からない。これは私自身、数社の教科書で実際に確認しました。
 

 さらに、直後に「四角形」が登場すると、今度は「よすみ」とか「直角」という新しい言葉が出てくる。しかし、その定義はあいまいで、教科書を読んでもよく分からない。

 指導書など先生向けの記述も確認しましたが、数学的にシンプルな説明になっているようには見えませんでした。

 こうした混乱が「生活経験」を欠いたまま「抽象的な概念」を教えようとして失敗する、「お約束のダメ・シナリオ」になっていることに注意しなくてはなりません。

 現代の脳認知科学は、抽象概念以前に、現実の生活環境でそのアナログ=類推の経験を持つ重要性を教えます。

 同時代の科学が到達した常識的な水準で授業がなされるべきです。役所の慣例その他で子供が混乱する「時計」の二の舞を演じるべきではありません。

 私たちのここでの対案例は「折り紙」です。

 抽象的な「三角」「四角」という概念以前に、手に取って目で見、触れ、折るなどの操作=オペレーションを通じて、それとかかわり合う「体験」を持つ。