日本語しか話せないのは強国の証明?

 話は変わるが、このニュースは私に、日本に住んでいた学生時代、アメリカに留学して帰ってきた友人が言った言葉を思い出させた。

「私のアメリカ人の彼はスペイン語が話せるの。でも、それを隠しているのよ」。親が南米出身であることが知られると、自分への差別につながるからだと言う。日本はちょうどバイリンガルという言葉がもてはやされていた時代で、「バイリンガルを隠すなんて勿体ないなぁ」と私は呑気に思った。

 同じ頃、クラスメートの一人が「日本人が英語を話さず、日本語のみしか話さないのは、戦後アメリカの植民地であることへの当時の人々の無言の抵抗だったらしいよ」と言った。なるほど一理ある、と思ったが、どちらかというと冗談として受け取り、「それにしても英語がここまでできない世界強国(当時は)なんて、残念すぎる」とやはり呑気に思った。

 のちにパリに住み始めて、世の中には当たり前に3カ国語を話せる人が多いことを知った。しかし、そんな彼らの多くは先祖代々のフランス人ではなく、他国を祖先とするか、移民か移民の子たちである。自分の親の言葉、フランス語、そして英語を簡単にスイッチして流暢に話すのだ。

 つい最近、そんな彼らの一人が「日本人は自国語しか話せないね」と、シャープに私に言った。それは長きにわたって世界的に知られる事実でも、はっきりと「自国語しか」と口にされたのは初めてだった。私は「そう。ちょっと恥ずかしいことよね」と本音で答えた。しかし彼女は、首を大きく振って言った。

「モノリンガル、それはある意味で強国の人たちにしかできないことよ」。

 どうも私たち日本人は、戦後からずっとモノリンガルをキープし続けていることに、誇りを持っていいようではないか?! それに気づき、モノリンガル日本は栄誉な過去にして、次の日本の時代のステップとして多くの日本人が他国語を話せるようになるのは、悪くない。