中国の対日「制裁」はどこまで実害を伴うのか
中国は、高市発言への報復として、政治・経済・人的交流の各レベルで圧力を強めている。
まず目に見えるのは、人の往来を狙い撃ちにした措置だ。中国政府は自国民に対し、日本への観光旅行を控えるよう勧告し、航空会社には日本行き航空券の手数料無料の払い戻しや変更を認めさせた。
高市首相の台湾有事巡る答弁に反発、中国外務省が渡航自粛を呼びかけ(写真:ロイター/アフロ)
同時に、教育省は「日本の治安状況の悪化」などを理由として、日本留学を予定する学生に対し、渡航の是非を慎重に検討するよう警告を発出。日本に在留する中国人留学生や家族に対しても安全確保を呼びかけている。
経済面では、これまで福島第一原発処理水放出を理由に続けてきた日本産水産物への制限を、今回は政治的報復と絡めて「全面輸入停止」に再拡大させた。中国は2023年の処理水放出時に一度全面禁輸に踏み切り、その後限定的に緩和していたが、今回の措置で日本産のホタテやナマコなどに再び大きな打撃が出ている。
また、映画公開やコンサート、アニメ関連イベントなど日本文化コンテンツの中国国内での開催・配信が相次いで延期・中止となり、企業交流イベントや自治体間の友好事業も見直しや先送りを強いられている。
一方で、中国側は日本企業に対する本格的な経済制裁や大規模な拘束・摘発には慎重な姿勢を崩していない。反スパイ法に基づく日本人ビジネスマンの拘束は、これまでも散発的に発生してきたが、現時点で今回の発言を直接理由とする逮捕は報じられていない。
その背景には、中国経済の足元の厳しさがある。人口減少と不動産バブル崩壊、過剰債務の調整が重なり、中国の実態成長率は公式統計が示す数字を下回っていると指摘されている。
こうした状況下で、日本企業の対中直接投資や技術協力は依然として重要な意味を持つ。もし反スパイ法の乱用などで日本企業の駐在員に逮捕者が出れば、日本企業の「中国離れ」が一気に加速しかねない。
ビザ免除の停止や短期ビザ発給の厳格化も、中国側にとって両刃の剣である。ビジネス往来が細れば日本からの投資や技術導入が鈍り、長期的には自国経済の競争力を損なうリスクがあるためだ。
したがって、今のところ中国がとっている措置は、日本に一定の痛みを与えつつも、自国への打撃が致命傷とならない「嫌がらせ型制裁」の範囲にとどまっていると言える。
もっとも、日本にとっての影響が軽微というわけではない。観光や水産業など、一部の地域経済には目に見える打撃が出ている。短期的なマクロインパクトは限定的だとしても、対中ビジネスの先行き不透明感が高まることで、日本企業の投資決定に慎重さが増し、その影響は中長期に及ぶ可能性がある。