ニューヨークのブロードウェイで上映されている「ハリー・ポッターと呪いの子」(筆者撮影)

ブロードウェイに欠かせなくなったAI

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 ブロードウェイ版「ハリー・ポッターと呪いの子」の制作費は約75億円とされています。

 一般的なブロードウェイ作品の制作費が3億から5.5億円程度であることを考えると、その規模は15倍近くに達します。

 私は2年前にニューヨークでこの舞台を観ました。そこで感じた圧倒的な体験の裏には、単なる豪華さではなく、舞台芸術とITそしてAIが高度に融合した巨大システムが存在していることに気づかされました。

 もはや舞台というより、リアルタイムに動く総合デジタルアート兼インフラと表現した方が近いのではないかと感じたほどです。

 劇場に入った瞬間、空気が変わるあの独特の感覚。

 その背後には、人間の目には見えないところでAIが稼働し、照明、音響、可動舞台、様々な機構が完全同期されているという現実があります。

 最近のブロードウェイでは、舞台全体にセンサーが敷設され、俳優や装置の位置情報がリアルタイムに収集され、AIが瞬時に補正をかけるシステムが一般化してきました。

 役者が突然消えたり、空間が歪むように見えたり、炎が走ったりする演出は、単に機械的な仕掛けだけで成立しているわけではありません。

 照明と音響がAI制御でミリ秒単位の同期を取り、物理現象と視覚効果を高度に融合させることで、魔法の成立を支えているのです。

 ブロードウェイには劇場そのものを作品仕様に改造する文化があります。例えば、劇場の天井を抜いて大型吊り装置を追加したり、舞台下に巨大リフトを新設したり、さらにIT制御系の配線を劇場全体に敷き直すなど、通常の劇場では考えられないレベルの改造を行っているのです。