「身を切る改革」といっておきながら国会議員の歳費をアップ?写真は高市早苗首相(写真:つのだよしお/アフロ)
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(小泉秀人:一橋大学イノベーション研究センター専任講師)

 日本で長年避けられてきた政治制度改革の核心が、ついに正面から議論され始めた。

 先日、国会議員歳費を月5万円引き上げる案が検討されているという報道があった*1。政治家の給与というテーマは、国民の関心が高い一方で、最も反発を招きやすい話題でもある。「自分たちの給料だけ優遇するのか」「物価高騰で生活が苦しい中、なぜ政治家だけが報われるのか」という意見は、もはや反射的な反応と言ってよいほど浸透している。

*1国会議員の歳費、月5万円アップで調整…維新の「身を切る改革」配慮で次の国政選後の方針

 だが、冷静に考えたい。

 政治とは、国家を動かす仕組みであり、制度である。それを効果的に運用するには、人材の質が極めて重要だ。人材の質が低ければ、制度設計が拙ければ、国家が抱える難題に対応できるはずがない。

 そして、この「政治という職業の魅力」を左右する最大の制度が、議員報酬である。

 先日、別の記事で、議員定数削減が「身を切る改革」というのは名ばかりだと指摘した*2。無駄遣いを減らすコスト削減の大義名分とは裏腹に、経済学の精緻な実証分析によれば、逆に官僚の無駄遣いを増やして、大幅な歳出増に陥る可能性がある。

*2議員定数削減でムダが減る、は間違い!経済学が証明した驚きの結果、むしろ官僚・役人のムダ遣いを野放しにする

 経済学は、議員報酬というテーマについても、驚くほど多くの実証研究を積み重ねてきた。そして結論は明瞭だ。

 政治家の報酬を適正に引き上げると、政治の質は高まる。汚職は減り、優秀な人材が参入し、行政のパフォーマンスが改善する。

 これは「感覚的にそう思う」というレベルの議論ではない。厳密なデータと手法を用いた、科学的な結論である。本稿では経済学者としての視野から、この結論がどのように導かれ、日本政治にどのような意味を持つのかを深く掘り下げていく。