「NISA貧乏」はまだまし
新NISA元年となった2024年は投資原資への過剰な傾斜が個人消費を抑制しているというNISA犯人説が報じられ、「NISA貧乏」などという言葉も目にした。しかし、インフレ下での投資が資産防衛の意味合いを含む以上、消費の代替として投資をしたとしても、それは「貯蓄としての投資」に過ぎない。
デフレ下では現預金に回っていたはずの原資がリスク性資産に回ったと考えれば「NISAのせいで貧乏になった」という事実は適切ではないだろう(「預金をたくさんしたから貧乏になった」とは言わないのと同じだ)。
ただ、現在に目をやると、国内外株式への投資意欲が減退しているだけでなく、現預金も2022年以降で顕著に家計金融資産から減っている(図表④)。現状は「NISA貧乏(投資のせいで消費されない)」と揶揄されていた頃よりも芳しくない。
【図表④】

現在起きていることは、純粋に「インフレにより可処分所得が減ったので投資する原資が乏しくなった」という構図であり、「投資も消費もできない」に近いように思われる。
9月時点で9カ月連続での実質賃金マイナスが確認されている状況と合わせて見れば、家計部門の投資意欲収縮は単にインフレを受けて原資不足が露わになってきたということなのではないか。
リフレ政策が「NISAにお金が割けるだけまし」という帰結になっているとしたら、それは高市政権の望むところではあるまい。
※寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です。また、2025年11日20時点の分析です
2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中





