日本各地でクマ被害が急増している(写真:ロイター/アフロ)
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 2025年秋、全国でクマの出没が過去に例を見ない勢いで増えている。東北地方ではドングリ不作が報じられているが、問題の根はさらに深い。長期的に進んできた生息域の拡大と、人間側が放置してきた「境界管理」の欠如──。クマと人間が新たな関係を模索せざるを得なくなった現実を、小池伸介氏(東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院教授)に聞いた。(聞き手:関瑶子、ライター&ビデオクリエイター)

──2025年秋、全国でクマの人里への出没が頻発しています。特に東北地方では連日のように被害が報じられています。

小池伸介氏(以下、小池): 東北で出没が増えている大きな理由の一つは、2025年特有の事情として、クマの主食であるドングリの不作があります。秋にドングリが実らない年、クマは食べ物を求めて行動範囲を大きく広げます。

 もう一つ、より長期的で深刻な理由があります。この40~50年の間に、クマの分布域自体が約2倍に拡大したことです。

 かつては山奥がクマの生活圏で、中山間地には林業や農業を営む人々が住んでいました。しかし近年、人が中山間地から撤退し、耕作放棄地や管理されない森林が広がりました。本来「人の土地」だった場所がクマの生活圏に変わり、人とクマの生活圏が隣り合い、時に重なり合う状況が生まれてしまったのです。

 そのうえ今年は森の中にドングリが少ない。必然的に、クマの動きが人間の生活に影響する頻度が増えています。

 集落のすぐ隣で生まれ育ったクマは、人への警戒心があまり強くない可能性があります。柿や栗、電気柵のない農地や果樹園があれば、「ここに行けば食べ物がある」と学習する。そういった個体が味を覚え、さらに集落の奥へ入り込む。この悪循環が、まさに今広範囲で起きています。