フェイク動画をごく普通に取り上げるマスメディア

 たとえば、ミラ・ジョイのXへの投稿については、X自身が、これを「Today’s News(注目のニュース)」タブで取り上げ、あたかもニュースであるかのように扱った。これは単に、アルゴリズムが誤ってピックアップしただけかもしれない(それでも、あってはならない間違いだが)。

 しかし、Fox Newsの行動は擁護できない。この動画の拡散に前後して、同じように生活保護受給者に敵意を抱かせるようなAI生成動画が登場しているのだが、その一部をFox Newsが取り上げ、「SNAP受給者が政府閉鎖を理由に店舗を荒らすと脅迫」というタイトルの記事で報じたのである。

 同記事は現在、「SNAP受給者が給付削減に不満を訴えるAI動画が拡散」というタイトルに修正され、内容が書き換えられた上で、記事の末尾に「この記事では以前、AIで生成されたと見られる動画について、その旨を明記せずに報じていました。現在は修正済みです」という訂正文を付けて公開されている。

 元の動画を見ていないが、こうしたプラットフォームやメディアで「ニュース」として取り上げられているのを見た、という人も多いだろう。その中には、まだ「本当に生活保護を悪用している人がいるんだ」と信じ込んでいる人もいるかもしれない。

 このように、Sora 2で生成されたウォーターマーク付きのフェイク動画が注目を集め、さまざまなSNSプラットフォーム上で拡散、マスメディアに取り上げられて「事実」として浸透するという出来事は、他にもいくつか確認されている。

 その中には、今回取り上げた「生活保護受給者の不正」という、人々が「本当にこんなことがあるんじゃないか」という疑念を上手くついているものも多い。

 たとえば、いま米国では、ICE(米国移民・関税執行局)の職員が暴力的に移民摘発を行っていることが問題になっているが、そのICE職員が抗議する一般市民に催涙ガスを噴射するAI動画(こちらもSoraのウォーターマーク入り)が拡散するという出来事が起きている。

 これまで「弱者」と見なされて、保護されてきた人々への敵意の増加と、そうしたリベラル的政策からの揺り戻しに対する反発。これらを利用した拡散が起きているわけで、右派・左派の双方がターゲットになっていると言えるだろう。

 となると疑われるのは、米国外の敵対勢力による社会の分断・対立工作だ。以前から本連載でも、ロシアや中国による、デジタル技術を活用したプロパガンダについて取り上げてきた(参考記事)。そうした勢力がSora 2を利用しているという懸念はないのだろうか。

 実はそれに関連して、気になる調査結果が発表されている。ニュースや情報源の信頼性を評価している米企業、NewsGuardが発表したレポートがそれだ。