ハンガリーがウクライナに電力を供給する狙い
第1次・第2次大戦で敗れたハンガリーは広大な領土を失い、周辺地域には多くのマジャル人が取り残された。第1次大戦後、ザカルパチャはチェコスロバキア領となったが、1939年にハンガリー軍が占領した。その後、1944年にソ連軍が侵攻し、ウクライナの領土とされた。
日本も千島・樺太をソ連に占領され、ほとんどの日本人は追い出された。一方で、ザカルパチャにはマジャル人はそのまま住みつづけた点が千島・樺太とは大きく異なる。ザカルパチャの回復は、マジャル人の悲願である。
1991年12月にソ連が解体されると、ハンガリー政府はウクライナに住むマジャル人にさまざまな援助を積極的におこなうようになった。特に2011年以降、在外マジャル人にハンガリー国籍が付与されるようになった。ザカルパチャでは各地でウクライナ国旗ではなくハンガリー国旗が掲げられるようになった。
ウクライナ政府にとっては困った事態だが、強くは規制できなかった。
特に2014年にロシアがクリミア半島を占領すると、ウクライナ政府は、クリミア半島の先住民であるクリミア・タタール人、カライム人、クリムチャク人といった少数民族の保護を強くうたうようになった。
また、ロシアはウクライナに住む少数派のロシア系住民が迫害されていると非難している。ウクライナはマジャル人を含む少数民族の保護を全面に押し出さざるをえない。
ハンガリーは、既に1970年代には少子化が始まっていた。有効な対策が打てないまま1989年にベルリンの壁が崩壊。それ以降、若者を中心に西欧への人口流出が続いた。また、ソ連崩壊にともなう経済的混乱により、生活苦におちいる人が増えると民族主義も台頭した。
最大政党フィデスを率いるオルバン首相は、徹底した少子化対策、キリスト教の利用、反LGBTQなどに加え、かつてのハンガリー王国の領土回復を暗にアピールするなど、右傾化、民族主義化することで支持を集めていった。ウクライナが統治するザカルパチャのマジャル人へのハンガリー国籍付与などは、こうした民族主義的政策の一環である。
「反ウクライナ」とはいえ、ロシアに発電所を攻撃されているウクライナに、ハンガリーは電力を供給している。ロシアから買ったガスで作った電気をウクライナに売っているのだから、ハンガリーはしたたかだ。米国から買ったLNG(液化天然ガス)を燃やして作った電力をウクライナに供給する案もあって、米トランプ政権との交渉も巧みである。