熊のいる山にたけのこ採りに行くワケ

 近年は山菜やきのこ採り、登山などで熊による人的被害が相次いでいる。様々な憶測が飛び交う中、はっきり言ってしまえば、熊がなぜ人を襲うのか、当の熊に聞かなければ答えは分からない。

 特にたけのこ(ネマガリダケ)採りの際の事故が多発しているのは、熊も人もたけのこが大好きだから。お互い競い合うかのように山へ入っている。

 たけのこ採りをした人は分かると思うが、孟宗竹などと違い、細く込み入った竹藪の中では視界も悪く、体全身を動かしながら漕ぎ回らなければ前に進めない。熊も同じような状況で、お互い気付かずに鉢合わせてしまう。

 ラジオや鈴は警戒音として重要ではあるが、時々人を怖いと思わない熊の個体がいるとなれば、もはや意味をなさなくなる。

山わさび。山の恵みの一つ山わさび。山の恵みの一つ
山ぶどう山ぶどう

 そんな状況でも、土地の人々は昔から暮らしの一部として毎年欠かさずたけのこ採りをしており、熊がいるからいかないという考えにはならない。さらに言うと、金銭に変える、要は仕事のためにという人はごくわずかで、ほとんどの人が自家消費やお裾分けのために山へ入る。

 この土地の暮らしを分からない人からすれば、なぜその程度の目的のために、熊がいる場所にわざわざ自らの命を賭けてまで赴くのかと当然の疑問を持つと思う。しかし、顔を洗わず歯磨きをしないで過ごす違和感同様、それが暮らしのルーティーンとなっていると言ったら、少しは理解できるだろうか。

 いや、それでもなお理解できないのは知っている。それはこの土地で暮らさなければ、結局理解はできないと思う。

熊棚。木の上で木の実を食べる際に、熊は枝をお尻に敷き詰めていく熊棚。木の上で木の実を食べる際に、熊は枝をお尻に敷き詰めていく
根子トンネル根子トンネル