ハンクと正統派ユダヤ教徒のふたり(写真:Sony Pictures、以下同)
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(元吉 烈:映像作家・フォトグラファー)

 ビル・クリントンが2期目の大統領を務め、湾岸戦争と同時多発テロの間の、今から考えれば夢かと思えるほど政治的に安定していた1998年。その年のアメリカ、ニューヨークを舞台にした映画「Caught Stealing(直訳=盗みで捕まる)」が全米公開中だ。

 冒頭に、「1998年はマーク・マグワイア vs サミー・ソーサの本塁打王争いの年だ」というナレーションから始まる本作は、野球で始まり野球で終わる映画だ。

 当代きってのイケメン俳優、オースティン・バトラー演じる主人公のハンクは、出身地であるサンフランシスコのチーム、ジャイアンツのキャップを被っており、母親との電話では最後に必ず「ゴー・ジャイアンツ!」と言うのが決まりになっている筋金入りのジャイアンツ・ファン。

 しかし、ヤンキースとメッツという熱狂的なファンをもつチームがあるニューヨークでは、ハンクは圧倒的にマイノリティで、ハンクはニューヨークに集う多様なマイノリティたちとの争いに巻き込まれていく。

*以下、映画のネタバレがありますので、気になる方はご注意ください。

 本作には、ニューヨークならではのキャラクターが数多く登場する。

 主人公のハンクと、彼が働くバーに入り浸っている飲んだくれのおっちゃんたちは白人。ゾーイ・クラヴィッツ演じるハンクのガールフレンド、イヴォンヌは複数の人種が混ざっているバイ・レイシャル。

 ハンクとイヴォンヌを結果的に犯罪に巻き込むことになるルスはイギリス出身のパンクロッカー。この犯罪を捜査するのはイーストビレッジのゲットー出身の黒人女性刑事。

 偶然、秘密を握ったハンクを追い込むギャングたちには、中南米系のコロラド(というニックネーム)。ニューヨーク南部のブライトン・ビーチからロシア人のアレクセイとパヴェル。そして、正統派ユダヤ教徒のリパとシュムリーと、登場人物は実に多種多彩だ。

 ここにアジア人がいないのが日本人の私からすると少し残念(?)なところだが、ハンクたちが繰り広げるジャッキー・チェン風の派手なアクション・シーンには、チャイナタウンと中国人が描かれており、末席ではあれど登場している。

ダウンタウンのバーに勤務するハンク(オースティン・バトラー)