高校球児にも米大留学の波がくるか
日本の高校生が米球界へ挑戦する場合、大学進学以外では、マイナーリーグからメジャー昇格を目指すこともある。東京・桐朋高出身の森井翔太郎選手は昨秋のNPBのドラフト候補といわれていたが、アスレチックスとマイナー契約を結んで渡米した。
ただし、選手層の厚いメジャー球団傘下において、マイナーの環境はトレーニング施設なども充実するようになっているとはいえ、環境や文化になじめないリスクが存在する。日本のアマチュア選手がマイナーからメジャーへ昇格した例もわずかしかない。
一方で、米国の大学は、野球の実力だけではなく、勉強との両立が求められる。一見、大変なようにも見えるが、英語力を身につけることもでき、学生という立場で米国の野球環境に身を置くことができる。
佐々木選手のように奨学金制度を活用できれば、授業料の問題も解決できる。何より、最大のメリットは、在学中にもNPB、MLB双方のドラフト指名対象となる点だ。
日本の高校生がこぞって米国の大学へ流れるということはないだろうが、メジャー志向の強いトップレベルの高校生にとって、佐々木選手のようなケースは魅力的な選択肢となるはずだ。
そもそも、日本の高校生は、海外の大学進学を目指す傾向が強まっている。文部科学省によれば、文部科学省の23年度調査では、海外の高等教育機関への進学者数は1635人で、初めて調査した21年度の1424人から増加傾向にある。勉学の世界では、国内最高峰の東大ではなく、海外の難関大への進学実績が注目される時代にもなりつつある。
野球に打ち込んでいる高校生にこの潮流がきても不思議ではない。
佐々木選手もそうだが、米国の名門大で学んだ経験は色褪せることはなく、野球とは別の次元で、高い付加価値となる。スポーツ報知によれば、海外留学中の日本人野手が支配下指名を受ければ史上初という。25年ドラフトが集めた注目が、今後の高校生の進路にどんな影響を与えていくかは、もう一つの関心事にもなる。
田中 充(たなか・みつる) 尚美学園大学スポーツマネジメント学部准教授
1978年京都府生まれ。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。産経新聞社を経て現職。専門はスポーツメディア論。プロ野球や米大リーグ、フィギュアスケートなどを取材し、子どもたちのスポーツ環境に関する報道もライフワーク。著書に「羽生結弦の肖像」(山と渓谷社)、共著に「スポーツをしない子どもたち」(扶桑社新書)など。
