東洋のベニスとも呼ばれることがある水の都・蘇州(梓皓 周によるPixabayからの画像)には日本企業が多く進出している

1.欧米一流企業は目立たないように対中投資

目次

 中国経済は2022年に高度成長期の終焉を迎え、経済の期待成長率が下方修正された。

 このため、中国の企業、消費者はいまだに先行きに対する自信を回復できず、成長率は中長期的な低下傾向が続いている。

 こうした状況下、もともと中国市場で収益を確保できるほど高い国際競争力を持っていない中堅中小企業、一部の大企業は中国市場から撤退、または事業縮小の動きを加速している。

 しかし、高い国際競争力を持つ日米欧の一流企業は基本的に中国国内市場に対する積極姿勢を変えていない。

 それは、第1に、中国市場が今後も中長期的に世界最大の市場であり続けること、第2に、日米欧の一流企業が最先端の技術を投入して同一条件で熾烈な競争を展開する唯一の市場であるからである。

 以上の2点において、当面中国に代わる市場は出てこない。

 こうした条件を備えた中国市場から撤退すれば、巨大市場で売上高を確保する機会と自社の技術競争力の世界における立ち位置を確認する機会の両方を失うことになる。

 このため、世界の一流企業の経営者は「中国で勝てない企業は世界で勝てない」という認識を共有している。

 しかし、米国、欧州では、本年に入ってから対中投資に対する逆風が一段と強まっている。

 米国ではトランプ政権の企業に対する圧力が強まり、企業経営者が政府の意向に逆らう場合のリスクが高まっている。

 トランプ政権は企業が政権の政策方針に従順に従わない場合、様々な営業妨害措置を通じて政府の意向に従わせることが多い。

 このため、企業経営者は事業リスク回避のために政権の意向に従わざるを得なくなっている。

 とくに企業経営者は議会証言への出席を求められ、中国事業等に関して反中派の議員などからつるし上げられることを強く警戒している。

 このため、多くの企業は対中投資を極力目立たないように実施しているほか、議会証言を求められないよう多大なコストをかけて議会や政府に対するロビー活動に注力している。

 欧州では米国のような政府による理不尽な圧力は存在しない。

 しかし、本年に入って以降、中国のロシア寄りの姿勢が顕著となっていることから、ウクライナを支援する欧州全体で中国を敵視する反中感情が強まっている。

 このため、企業は市場の敏感な反応に配慮せざるを得ず、米国企業と同様に対中投資については極力目立たないよう慎重に実施するよう努力している。

 このように、グローバル市場で高い競争力を有する欧米一流企業は対中投資に対する基本姿勢を変えていないが、投資行動はより一層慎重にならざるを得なくなっている。