「メディアの王様」と言われることもあったテレビだが…(写真:PETCHPIRUN/Shutterstock.com)
NHKと民放による「中継局の共同利用」の事業計画が頓挫した。「放送業界全体の発展のため」という思想のもと、NHKの受信料を使って、主に民放ローカル局の費用削減を図る仕組みが着々と構築されつつあった。ところが、採算が合わないことを理由にNHKが計画の白紙撤回を通告。NHKの突然の心変わりに民放が反発している。視聴者不在で内向きの「二元体制」に執着している放送業界は、現実を直視できているのか。
(岡部 隆明:ジャーナリスト)
二人三脚で進めてきたはずの「中継局の共同利用」をNHKが唐突に見直し
「なんでそうなったのかを説明してほしい」
日本民間放送連盟(民放連)の早河洋会長(テレビ朝日ホールディングス会長)は、9月18日の会見で、NHKに対して苦言を呈しました。これは、NHKと民放が二人三脚で進めてきた「中継局の共同利用」について、NHKが唐突に「見直したい」と通告してきたことを受けたものです。
中継局はテレビの電波を飛ばすための設備です。これを維持するのは費用がかさみ、民放ローカル局の経営を圧迫しています。このため、ハード面(設備・技術)では、NHKと民放が協調することで放送業界全体の利益につなげようという構想がありました。
NHKの子会社(日本ブロードキャストネットワーク)を2024年12月に設立。ここに民放も出資し、役員を送り込んで一体となって中継局の共同利用を進める予定でした。その前提で、10月中に運営の詳細を固める、そんな矢先の破談だったということです。
NHKの通告は平たく言えば、「あんたたちと一緒にやるの、やーめた!」ということです。「ある種の失望感、挫折感みたいなものを持っている人が多い」と早河会長が述べています(9月18日付、毎日新聞)が、民放連加盟社にとってはキツネにつままれているのかもしれません。
不可解さが拭えないのは、計画の頓挫の理由について、NHKが説明しきれていないからでしょう。民放連会長会見の前日17日にNHKの稲葉延雄会長が会見し、「この事業モデルを先々見通すと、かなり運営が厳しい。コスト的にも見通しが厳しい」と述べました。
事業計画を断念する理由として、「採算が合わない」というのは、正当性があると言えます。しかし、民放連会長の「なんでそうなったのか」という発言が示すように、民放側が納得していません。