山一證券、オリンパス、東芝、オルツ…背景に何が?

 戦後の主な粉飾決算・不適切会計のケースをまとめたのが、下の表です。高度成長をリードしてきた鉄鋼業の「山陽特殊鋼」、化学繊維メーカーの「興人」、ミシンのトップメーカーだった「リッカー」、海外でも幅広く店舗展開していたスーパーの「ヤオハン・ジャパン」、四大証券の一角だった「山一證券」……。粉飾決算や不適切会計には、日本を代表する企業も関わっていたことがわかります。

表:フロントラインプレス作成

 こうした企業は、なぜ不正に手を染めたのでしょうか。

 東芝のケースでは、社長のトップダウンが強すぎたことが背景にあるとされています。不適切会計を調査した第三者委員会は「粉飾決算」こそ認定しませんでしたが、長期に及んだ不正の要因として「経営トップらにおける意図的な当期利益の(実力以上の)かさ上げ」「当期利益至上主義と目標必達のプレッシャー」「上司の意向に逆らうことができないという企業風土」などが存在していたと指摘。社内では上層部から下りてくる「チャレンジ」という名の命令に逆らえない企業風土が増幅され、不正をただす機会を逸したと結論付けています。

 ヤオハン・ジャパンの粉飾決算もこれに似ているかもしれません。ヤオハンは海外にも手広く事業を拡大するなかで、「年間の株主配当は16.5円」という投資家への約束を守ろうと、粉飾決算に手を染め、その後、粉飾を隠すために粉飾を行うという悪循環から抜け出せなくなってしまいました。

 しかし、粉飾はあくまで財務諸表上の操作であり、経営実態そのものが好転するわけではありません。いわば、一時しのぎの虚飾です。巨額の不良債権をペーパーカンパニーなどに不正に付け替え(飛ばし)、含み損の存在を隠し続けた山一證券のケースも、結局は数年を経て損失が表面化。その時点では損失は穴埋め不可能なほどに拡大し、結局、会社は廃業に至りました。

 会計不正は、企業の大小を問わず、その後も延々と続いています。2024年以降に限っても、大阪の医療機器商社、東京のベアリング商社、千葉市の中古車販売会社などで粉飾が発覚。ことし6月には、東証グロース上場のAIサービス会社「オルツ」(東京)で粉飾決算疑惑が表面化し、東京地検が幹部らの事情聴取に踏み切ったことも報じられました。

 信用調査機関の東京商工リサーチがことし2月に公表した調査結果によると、2024年に不適切な会計があったと開示した上場企業は60社(前年同数)、件数は60件(前年比3.2%減)に上っています。この調査を2008年から続ける東京商工リサーチは「(不適切会計の開示企業数は)依然として60社台と高水準で推移している」と指摘。不適切会計の横行に警鐘を鳴らしました。

 正しい財務諸表がなければ、企業への「信頼」はありません。財務諸表のごまかしを続ける行為は、火の着いた爆弾を隠し持つようなもの。いずれ、爆弾は破裂します。粉飾のない財務諸表こそが、すべての企業活動の礎なのです。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。