年金生活は悲喜こもごも(写真:Princess_Anmitsu/Shutterstock.com)
将来受け取る公的年金の額はどれくらいになるのか。今は、日本年金機構から毎年誕生月に送付される「ねんきん定期便」や、同機構の「ねんきんネット」により、以前に比べて把握しやすくなっている。厚生労働省の「公的年金シミュレーター」を使えば、税金や社会保険料などを反映した受給額を計算することも可能だ。とはいえ、実際に受給してみると、想定外の出来事がいろいろあるようで……。年金生活を送る先輩諸氏の体験談を紹介する。
(森田 聡子:フリーライター・編集者)
高額な健康保険料に閉口
68歳の男性は定年後も勤務先の継続雇用で働いていたが、満65歳で完全リタイアし年金生活に入った。
ねんきん定期便で確認した年金収入は約240万円、月額20万円の年金は厚生年金受給者の平均額16万6606円(男性、厚生労働省「令和5年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」)より2割ほど多い。
1歳上の妻も自分名義の年金を月額で6万円ほど受け取っている。「住宅ローンも完済したし、贅沢をしなければ日常の生活費は年金でカバーできる」と考えていた。
ところが、実際に受給が始まってみると、年金からは所得税が天引きされ、さらに国民健康保険料や介護保険料も支払う必要がある。年金生活が始まった翌年には、住民税決定通知書も届いた。税金と社会保険料で収入の約15%を持っていかれ、“実質収入”は月額17万円に届かない。
「特に国民健康保険料と介護保険料の負担が重く、両方合わせるとゆうに年間25万円を超える。光熱費や食料品価格、自宅マンションの管理費なども上がっており、完全に予定が狂った」
結果、毎月5万円程度を老後のための預貯金から切り崩している。自宅マンションは近い内に水回りやトイレのリフォームも必要になっており、将来の医療費や介護費が確保できるか不安が募る。リタイア後の楽しみにしていた国内外への長期旅行も「出かける気にもなれない」と嘆く。
「税金や社会保険料が引かれること自体は認識していたが、大した年金額でもないのにこれほど手取りが減ってしまうとは思わなかった」と話すのは別の67歳の男性だ。
特に健康保険料が高いのに閉口していると言う。「92歳の父親と同居しているが75歳以降の後期高齢者医療保険の保険料も徐々に上がっていて、来年からは“異次元の少子化対策”の『子ども・子育て支援金』まで加算される。今の日本に少子化対策が必要なのは分かるけれど、老い先短い高齢者から取るのはえぐ過ぎないか」と憤る。
一方で、ねんきん定期便に記載された金額よりも実際の受給額が多かったという人もいる。