条約が定める「ジェノサイド」の条件

 ジェノサイド条約は第2条でジェノサイドを「国民的、人種的、民族的、宗教的な集団の全部または一部を破壊する意図をもって行われた」行為と定め、次の5類型を挙げています。

①    集団構成員を殺すこと
②    集団構成員に対して重大な肉体的、精神的な危害を加えること
③    全部または一部に肉体の破壊をもたらすことを意図した生活条件を故意に課すこと
④    集団内における出生を防止することを意図した措置を課すこと
⑤    集団の子どもを他の集団に強制的に移すこと

 ピレイ氏がトップを務める調査委員会は今回、イスラエルの攻撃が⑤を除く4項目に当てはまり、今もそれらが続いていると結論づけました。その内容は表のとおりです。

表:フロントラインプレス作成

 これらのうち、④では、産科病院への攻撃に加え、2023年12月に行われたガザ最大の不妊治療施設への砲撃に着目しています。報告書は、ここに保管されていた約4000個の胚と1000個の精子および未受精卵が失われたと強調しています。この施設では毎月2000〜3000人の患者を受け入れ、70〜100件の体外受精(IVF)を実施していました。イスラエルはこれから生まれてくるパレスチナ人の未来までも奪ったのです。

 また、ガザへの攻撃を「人間のような動物(human animals)との戦い」と述べたイスラエルのガラント国防相(当時)、ネタニヤフ首相、ヘルツォグ大統領の計3人が、ジェノサイドを扇動したと名指しされました。

 イスラエル国内でも、人権団体が自国の行為を「ジェノサイド」と指摘しています。「人権のための医師団・イスラエル」(PHRI)の事務局長はイスラエル紙ハアレツへの投稿で「国際人道法で特別に保護されている病院」が攻撃されており、「犯罪の中の犯罪、ジェノサイドだ」と非難しました。

 一方、イスラエル政府は国連の報告書に関し、「歪曲と虚偽」だと強く反発しています。ガザへの攻撃は、ハマスから自国民を守り、人質を解放するための「自己防衛」であるとの立場を崩していません。