賃上げから取り残される層への対策は急務(写真:Pormezz/Shutterstock.com)
慢性的な人手不足もあり賃金引き上げに関する話題が増えている。2025春闘は2年連続で5%超の賃上げを実現したほか、25年度の最低賃金も02年度以降最大となる上げ幅(66円)で全国加重平均が1121円となり、初めて47都道府県全てで1000円を超えた。一方で、インフレなどでさらに厳しい生活を強いられている人もいる。“賃上げ”トレンドの中でよもやの“賃下げ”に直面した2人の例を紹介する。
(森田 聡子:フリーライター・編集者)
給料は手取りで1割近く減る一方、家賃は契約更新で2万円近く値上げ
都内在住の50代のシングル女性は最近、勤務歴10年になる食品会社から給与減額の通告を受けた。原材料価格が上昇している中で取引先のスーパーなどの閉店が続き、勤務先の業績は悪化している。同時に社長をはじめとする役員の報酬も減額されたというが、「社員でダウンしたのは自分だけ。納得できない」と憤慨する。
女性は就職氷河期世代の上のバブル世代。大学卒業後は有名上場企業に営業職として入社した。しかし、自分の親ほどの世代の顧客対応に追われ、次第に「ここは私の居場所ではない」と考えるようになり、入社3年目で退社。折しも日本は不景気真っ只中で、いわゆる“第2新卒”の求人もほとんどなかった。
「若気の至りとはいえ、無謀な選択だったと思う」。やむなく、以降は保育園、デザイン事務所、飲食店など非正規雇用でさまざまな職場を転々とし、50歳を前にようやく正社員に採用されたのが今の会社だ。
ただ、正社員とは名ばかりで税金や社会保険料を引かれた後の手取りは20万円ほど。「家賃や光熱費を支払うと、生活していくのがやっとだ」とこぼす。
「社長のワンマン経営の会社なので、人件費=経費としか考えていない。給料は最低賃金をベースに設定され、賃上げもほとんどない。業績低迷で去年の冬と今年の夏のボーナスも出なかった。まぁ、出たとしても数万円がいいところだけれど」
自嘲気味に話すが、状況は切羽詰まっている。今秋には賃貸アパートの契約更新が控えており、家賃は月額で2万円近く値上げされる見込みだ。一方、給料は手取りで1割近く減るため、シェアハウスを中心に転居先を探している。