夏の甲子園大会を出場辞退した広陵高校から考えるべき「連帯責任」のあり方(写真:スポーツ報知/アフロ)
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暴力事件により夏の甲子園大会を出場辞退した広島県・広陵高校野球部。発覚のきっかけがSNSという事態に、世間を大きく騒がせた。城西大学准教授で、自身も20年以上高校野球に現場で携わってきた竹村直樹氏は「高校生の他競技には見られない『連帯責任』という措置はやめていくべきではないか」と主張する。どういうことか。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

学生野球協会・高野連は「連帯責任」を緩和する方向だったのに…

──夏の甲子園で広陵高校が出場辞退しました。被害者と学校側の暴力事件の見解の食い違いや相次ぐ被害証言で、同校のみならず高野連のガバナンスのあり方を問う声も続出しています。高校野球の部長・顧問を20年以上務めた竹村さんは、本件をどう捉えていますか。

竹村直樹氏(以下、敬称略): 暴力事件を含む野球部での不祥事が、どのようなプロセスに則って処分されるかを整理しましょう。

 まず「不祥事報告」という校長の判入りの報告書を地方高野連に提出します。その上で地方高野連の理事長が「この案件は日本高野連に上申すべきか」を判断します。

 基本的に、暴力や犯罪行為などの重大事案が日本高野連に上申されると言っていいでしょう。その上で日本高野連が「審議委員会」を開き、高野連の上位組織である日本学生野球協会が定める「日本学生野球憲章」をもとに判断します。

 同校の1月の事案に対して高野連は「会長名による厳重注意」と「当該部員の公式戦の1カ月出場停止」を下しました。

 ちなみに「注意・厳重注意」という措置は学生野球憲章に基づいて原則非公表としていますが、広陵高校は8月の報道により開示を余儀なくされました。指導者の謹慎や対外試合の長期間の謹慎などの処分が必要な場合、高野連は日本学生野球協会に判断を委ねる、という形を取ります。

 実は、日本学生野球協会は「日本学生野球憲章違反行為」についての処分基準を2025年4月1日から緩和していました。主な変更点は連帯責任である「対外試合禁止」の条件が緩くなったことです。

 具体的には、対外試合禁止の基準は「違反行為をした部員が10人以上、または部員総数の50%以上」といったものです。これは従来から野球部だけが少人数がタバコを吸った場合でも、連帯責任として関係のない部員も「対外試合禁止」になってしまう、といった不条理をなくすためのものです。

 違反行為をした個人に対しての公式戦への出場資格を停止する措置を明確にすることで、巻き添えになる選手を減らしたいという意図が見て取れます。

 実は学生野球協会はスポーツ庁が掲げるガバナンスコードの要請に対応していくために具体的な処分基準を作成し公表する必要を認めていました。新基準に関連するワーキング・グループを「処分基準委員会」とは別に11回開催していたほどです。

竹村 直樹 城西大学経営学部准教授   私立高校で野球部長・顧問を20年以上務め、在職中に「高校野球の構造」について理論社会学を専門とした研究をはじめる。立命館大学産業社会学部卒業、立命館大学大学院社会学研究科博士前期課程修了。龍谷大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(社会学)。社会学理論、スポーツ社会学専攻。著書に『高校野球の制度研究 デュルケーム理論からみた社会学的分析』(創文企画)

 今回、高野連審議会が広陵高校に処分を下したのは3月5日ですから、どこまで新基準の影響があるのかは定かではありません。いずれにせよ「野球部だけ連帯責任を負う」ことに対する問題意識は日本学生野球協会も、高野連も持っていて、実際に新しい基準もつくられました。

 しかしながら、広陵高校は様々な社会的意見や圧力によって夏の甲子園を学校判断で出場辞退しました。「連帯責任」を緩和する方向にあった高野連や学生野球協会にとっては、皮肉な事態になってしまったともいえます。

──SNSの怒りの声は主に「被害者と思われるSNSアカウントの告発」と「広陵高校の報告」にあまりのギャップがあることだと思われます。両者が発表している人数や暴力の内容が違いすぎるのですが、真相究明は進むのでしょうか。