「ビヨンセは大切なチャンスを逃している」

「ビヨンセは大切なチャンスを逃している。完璧さを追求するあまり、母親としての経験、ビジネス面での奮闘、創作の裏側、弱さや人間味などの物語を共有しないことで、ファンとの共感や繋がりを犠牲にしている可能性がある」(ランドバーグ氏)

 テイラーはデジタル上でのファンとの関わりを見事に演出している。サプライズ・リリース、暗号めいた仕掛け、ファンによる考察合戦、彼女自身が仕込む遊び心によって、ネット上での話題には事欠かない。ファンに「自分は大切にされている」と感じさせる巧みさがある。

女神のようなイメージを作り出すビヨンセ(筆者撮影)

 ビヨンセの芸術性や意識の高い社会的なメッセージ性は批評家やニッチなファンに評価される一方で、少しお馬鹿な女の子でも理解できて自分に落とし込めるような個人的な物語性を欠いている。そのためテイラーのように次世代のファンを掘り起こすことに失敗している。

 ビヨンセの娘ブルー・アイビー(13)、ルミ(7)もステージに立ち、固定ファンを喜ばせたが、十代のファン層拡大にはつながっていないようだ。

 女神のように孤高なイメージを醸し出すビヨンセの方向性はテイラーの「隣の女の子」の親しみやすさとは対極にある。「第2のエプスタイン」と言われ、性的虐待が取り沙汰されるラッパーのショーン・コムズと、夫ジェイ・Zの関係もブランドに大きなマイナスになっている。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。