「つまらない人生ですよ!」

 やがてたどり着いた宿営の陣地。そこで中野は、階級が上の者から「道端に倒れている者を連れて帰ってこい」と指示が出された。中野は宿営地を出て、行き倒れになった人を探し、治療をして連れて帰ってきた。深夜だった。陣地に戻ると、当然みんなが寝ているはずだった。ところが、中野はそこであるものを見た。

「そこで私は見たんです。私がもとの陣地に戻った時、その時に、自分で感じる事件があったんです」

 中野は言った。それが日本へ帰るまいと決めたきっかけだった。

「それ以上は言いません。誰にも言っていませんし、これからも言いません。それから私は、鉄兜に籾を入れて炊いて食べるために外に出ました。それだけのことです」

 中野はあの夜に何を見たのか。それについては一切語ろうとしなかった。いまとなっては知る由もない。ただ、中野にとっては日本への帰還を拒むほどの出来事だったことは、想像に難くない。そして、その後で籾を鉄兜で炊いて食べた。籾で空腹を凌いでいた。

「もうその前から嫌になっていたんです。軍にも嫌気がさしていたのは事実です」

「そう、考えてみればつまらない人生ですよ! 生まれてきて、何も知らずに生きてきて、戦争にとられて死ねず、現地に残って食べるものもない。ここまで来て、何もなく死んでいく。私の人生、クズですよ!」

 最後に中野はヤケになったように、そう語っていた。戦争に言って食べるものもない。戦争によって歪められた人生。そしてトラウマ。

 朝ドラの登場人物たちに、いま描かれている戦争がどう影響を与えていくのかしれない。そしてアンパンマンの誕生とどう結びついていくのか。ただ、ひとつ言えるとしたら、現実の戦争の惨状はドラマ以上のものがある。

(文中敬称略)