そうやって繋いだ命。しかし、衛生兵だった中野も負傷して野戦病院へ送られる。そこへ後退してきた本隊と合流して、傷ついた体で後退をはじめた。
傷口に湧いてくるウジ
後退するにしても、部隊といっしょならどうにか食ってはいけた。しかし、部隊とはぐれてしまうと、もはやどうしようもなかった。ジャングルの中では集落もなく、食料の当てはなかった。
中野はのちに「白骨街道」と呼ばれる道すがら、倒れている人間には食料を少しずつでも与えていこうとした。だが、あまりにも倒れている人間が多すぎた。追随できない者は放置していく部隊もあった。自決も頻繁にあり、手榴弾の爆発する乾いた音があちらこちらで聞こえた。
負傷して顔や傷口からウジの湧いている人も大勢いた。
中野も怪我をした右の手のひらにウジが湧いた。夜になると急に手のひらが痛みだし、見るとウジが手相の筋の間を埋め尽くしていた。無数の小さなウジたちが中野の手を蝕んでいた。
ある朝、気がつくと目の前に敵の戦車が並んでいた。後退は暗い夜に行われることが多く、昼に駐留しようとした場所に敵が先回りしていた。戦車はジリジリと詰め寄ってくる。驚いた中野の連隊は散り散りになった。中野は戦車に追いかけ回されながら、ジャングルの中を必死に逃げた。