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(英エコノミスト誌 2025年8月23日号)

チェコのロシア大使館前でウクライナ侵攻に抗議する人々(8月21日、写真:ロイター/アフロ)

プーチン大統領は軍事力による難局打開かトランプ大統領が仲介するイカサマに賭けている。

 ドナルド・トランプ米大統領との首脳会談の翌日に当たる8月16日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は有力な政治家たちをクレムリンのエカテリーナの間に呼び出した。

 ツァーリ(皇帝)の時代にロシア帝国の威光を見せつけるために造られたこの大ホールは、かつてロシア帝国の領土だったアラスカを訪問してプーチン氏が成し遂げたことを説明する場となった。

プーチン氏はまず、戦争を終わらせようとするトランプ氏の努力と「真摯さ」を称えた。

「おかげで我々は必要な決断を下す場面に近づいた」と言った。

プーチン大統領のメッセージの真意

 プーチン氏は3年半前、この同じ場所に怯えた取り巻きを集め、ウクライナ東部で分離主義者が掌握している領土の国家承認を支持する理由を順に述べよと命じた。

 テレビで放送されたこの異様な光景は、ウクライナ侵攻が始まる合図となった。

 しかし、アラスカでの会談の後に開かれた今回の会合は、その戦争がいよいよ終わるかもしれないことを示唆していた。

 もちろん、ロシア側の条件での戦争の終結だ。

 そのメッセージはロシアが戦争で疲弊していること、そしてプーチン氏が――戦闘か有利な交渉のいずれかで――勝利を収める自信を持っていることを反映している。

 同氏の和平構想と軍事行動は同じ目標で結びついている。自らの権力拡大がそれだ。

 プーチン氏の口調は和やかだった。

「我々は米国の政権の立場を尊重する。米国は戦闘をできる限り早く止めたいと考えている。我々も同じ思いだ」と語った。

 プーチン氏の言葉を額面通り受け取っていると思しき人の1人がトランプ氏だ。

 同氏はこの数カ月、クレムリンの独裁者にほとんど病的な依存を示すようになり、ウクライナや欧州諸国からロシアの指導者に圧力をかけるよう促されるたびに尻込みしている。

 アラスカでの会談の後にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と欧州の首脳7人とワシントンで行われた首脳会談では、トランプ氏からフランスのエマニュエル・マクロン大統領へのささやきがマイクにとらえられた。

「思うに、(プーチンは)私のために合意したがっている。分かるか。ばかげた話に聞こえるだろうが」――。

 トランプ氏は以前約束したにもかかわらず制裁を科していないし、交渉の前提としての停戦ももう求めていない。