若い選手を支援するテニスファンドを開始したマネーフォワード社長・辻庸介氏(左)とテニス支援の大先輩である元ソニー副社長の盛田正明氏(右)
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日本有数のフィンテック企業、マネーフォワード創業者の辻庸介氏らは2025年6月、新たなファンド「Japan Tennis Rising Fund(ジャパンテニス・ライジングファンド)」を設立した。日本から世界トップレベルのテニス選手を輩出することを目的とし、海外のテニスアカデミー派遣や強化プログラムの提供を通じてジュニアテニスの振興を支援。世界に挑む若者を増やす。発足にあたって、辻氏は日本のテニス振興の大先輩である元ソニー副社長の盛田正明氏からも助言を受けた。若者が海外に挑戦する機会をもっと増やしてほしい——。その言葉は、企業のグローバル人材育成の本質にも重なる。

(蛯谷 敏:ビジネスノンフィクション作家・編集者)

31歳で海外留学「もっと早く行けばよかった」

——テニスのジュニア選手を支援するJapan Tennis Rising Fundは、そもそもどのような経緯で発足したのですか?

辻庸介氏(マネーフォワード社長、以下、辻): 僕自身、小さい頃からテニスを続けていて、常々何かテニスに恩返しがしたいという気持ちを持っていました。そして、よく集まるテニス好きの経営者仲間と議論する中で、未来のトップ選手誕生を支援する今回のファンド構想が生まれました。

 日本のテニスの未来を担っていくのは今の若い子どもたちです。彼ら、彼女らに対して僕らの世代ができることって、チャレンジする機会を作り、背中を押してあげることが一番だと思ったんですね。

 そして、海外のトップ選手と互角に戦っていくには、なるべく早い時期から海外で経験を積む方がいい。ところが、現状は実力があったとしても、どうやって海外に行けばいいか、その方法がほとんど知られていません。まずは、その課題を解決することから始めようと考えました。

「早い時期に海外」にこだわるのは、自身の経験もあります。僕は海外のビジネススクールに31歳で留学したのですが、行った後に強く感じたのは、「来るのが少し遅かった」という後悔でした。

 留学するまでは慣れ親しんだ日本に住み、周囲は全員日本人で、日本語で何不自由なくコミュニケーションができました。ところが、海外に住んだとたん、自分が外国人となり、立場が逆転してマイノリティに。慣れない生活の中で、何をするにも気後れしました。自分の本来のペースを取り戻すのに、相当時間がかかったんです。

 なかなか実力を発揮せずに悶々とする時期が続き、「もっと早くグローバルに人と交流できる環境に身を置いていたら、また違う経験だったろうなあ」と何度も思いました。そんな強烈な記憶が残っているんですね。