4日、日経平均株価は一時4万円を割り込んだ(写真:共同通信社)
「令和のブラックマンデー」とも呼ばれた株式市場の大暴落から1年が経過しました。日経平均株価は一時3万円台前半まで下落しましたが、現在は再び4万円台に回復。直近は「米雇用統計ショック」の影響で8月4日には一時4万円を下回る場面もありました。トランプ関税の影響や米国経済の動向、日銀の利上げ観測──今後の株式市場に潜むリスクとは何か。第一生命経済研究所の藤代宏一主席エコノミストに聞きました。
(河端 里咲:フリーランス記者)
暴落から1年、この先どうなる?
──2024年8月5日の日経平均株価の歴史的な暴落から1年が過ぎました。この1年を振り返ってみると、あの暴落は何だったのでしょうか。
藤代宏一・第一生命経済研究所主席エコノミスト(以下:敬称略):昨年8月の暴落について、正直「なぜあそこまで下げたのだろうか?」と感じています。ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)は大きく崩れていませんでした。
ただ、当時はトランプ政権の誕生による楽観的な要素(法人税減税やエネルギーの規制緩和など)が過度に織り込まれていたため、その反動で、市場が些細な材料で過剰反応して巻き戻しが起きたと見ています。
日銀の政策変更が引き金となり「日銀植田ショック」とも呼ばれましたが、決定的な悪材料だったというより、むしろ米国経済への先行き不安や、日経平均株価の構成比が高まっていた半導体関連の規制など、複合的な要因が重なっていたことが大きかったと考えています。
藤代 宏一(ふじしろ・こういち) 第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト。2005年に第一生命保険入社、2008年 みずほ証券出向。2010年 第一生命経済研究所出向を経て、内閣府経済財政分析担当へ出向。2年間経済財政白書の執筆、月例経済報告の作成に従事。2023年4月より現職、金融市場全般を担当拡大画像表示
──足元で4万円台まで回復してきたわけですが、米国経済への懸念は払拭されてきたのでしょうか。直近、8月1日には米雇用統計の失速を受けて株価は下落、円高ドル安が進みました。
藤代:前提として、米国経済は個人消費が強ければ景気後退を回避できます。そして、その鍵となる雇用が安定していることが非常に重要です。
実際、この1年間は求人件数や失業者数はほぼ横ばいで推移してきました。7月30日に発表された米JOLTS(雇用動態調査)では、解雇率が1.00%とほぼ横ばい。米国は21年〜23年に深刻な人手不足を経験したこともあり、企業もレイオフ(解雇)に慎重な姿勢をとっています。良くも悪くも企業が様子見で非連続的なショックが米国経済で起きていないことが、株式市場の安定と回復につながったと見ていました。
一方、直近8月1日に発表された7月の米雇用統計は、トランプ関税が発動されて以降、労働市場が冷え込んでいたことを「事後的」に示す結果になりました。7月単月の弱さは想定内でしたが、5・6月の大幅な下方修正は目を疑いました。「トランプ関税が労働市場に与えた影響は限定的」との見方は修正を迫られることになりました。直近の統計を踏まえると、労働市場は総崩れではないものの、堅調とは到底言えない状況になりました。