(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年7月17日付)
共和党の下院議員をホワイトハウスに招いて開かれた夕食会でスピーチするトランプ大統領(7月22日、写真:ロイター/アフロ)
ドナルド・トランプが6月にイランを空爆した時、FOXニュースの看板司会者だったタッカー・カールソンや第1次トランプ政権で首席戦略官を務めたスティーブ・バノンといった人々が反乱を起こした。
中東の戦争に手を出した米国の過去の(不運な)冒険を批判してきた大統領が新たな戦争のリスクを冒し、自分たちが夢見る「米国第一」主義者ではなく、3人目の「ブッシュ大統領」であるかのように振舞っていたからだ。
富豪の故ジェフリー・エプスタインの問題をめぐり、MAGA(米国を再び偉大に)運動に新たな亀裂が生じた。
MAGAワールドの一部は、性犯罪者で2019年に自殺したエプスタインが数々の著名人の弱みを握っており、そうした連中が手を回してエプスタインを殺害したと信じている。
何年も前からそうした説を吹聴してきた末に、トランプはこれと矛盾するメモを公表した。
今では、事件を忘れて前に進んでもらいたいと考えている。
トランプの信奉者は、傲慢で自分の立場を利用して甘い汁を吸うエリートが法を超越している(そう聞いて読者は具体的な例が思い浮かぶだろうか)と考えているため、トランプの言うことを聞かない。
MAGA運動にあってトランプにはない「信念」
トランプとその信奉者の間に走るこれらの亀裂が今夏最大の亀裂になるかどうかさえ定かではない。
大統領はウクライナと北大西洋条約機構(NATO)に好意を寄せ始めたように見える。
最近ではロシアのウラジーミル・プーチンに対して批判的になった。
米国右派のクレムリン好きの多くは、数カ月前にホワイトハウスの大統領執務室でウクライナのウォロディミル・ゼレンスキーを責め立てた男に何が起きたのかと首をかしげているに違いない。
こうした争いはすべて過ぎ去っていく。
だが、一つひとつの争いがある重要な真実を暴く。トランプとMAGAはもはや同一ではないということだ。
トランプの運動――知識人や献金者、オンライン上の草の根の支持者――は固い信念を持っている。
別の国に対して経常収支の赤字を出すことは「負け」と見なされるという生涯にわたる確信を別にすると、トランプにはそれがない。
トランプ自身にとっては、どれ一つとして致命的ではない。
トランプはカリスマ性と選挙での度重なる勝利、MAGAの重要な優先事項(例えば、トランプが明らかに信じていないようなワクチン懐疑論やインチキ療法)の実践によって運動内の意見対立を取り繕う。
そのおかげで、トランプは大統領を退任する予定の2029年まで、あるいは少なくとも2026年秋の中間選挙までは深刻な内部対立から身を守ることができる。
カールソンとバノンは議員や政権幹部、その他の共和党の権力の中枢を代弁しているわけではない。