(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年7月16日付)
トランプ大統領の写真に「人々の敵」と書いたプラカードを掲げ、ブラジルへの50%関税に抗議する人々(7月10日サンパウロで、写真:ロイター/アフロ)
骨に食らいつく犬のように、ドナルド・トランプは必ず関税に戻る。
今度は、親密な同盟国や極度に貧しい国を含む様々な貿易相手に対し、2025年8月1日に課す関税率の改訂版を提案している。
今回もトランプはTACO(Trump Always Chickens Out、トランプはいつも腰砕け)になるのだろうか。それは誰にも分からない。
ただ、自分の非合理的な重商主義を満足させられるディール(取引)をトランプがまとめる可能性、もっと言えば実現できる可能性は、ゼロに近いくらい低いように思われる。
非合理的な人物は予想のできない行動に出る。ひょっとしたら、今回は本気なのかもしれない。
その場合、5月の時点ですでに8.8%という高水準にあった平均実効関税率はさらに上昇する。そして、我々は新しい世界に突入することになる。
8月1日が期日の関税もナンセンスな経済学
新たに示された関税率の一部を見てみよう。
ブラジルからの輸入品には50%、ラオスとミャンマーには40%、タイは36%でバングラデシュが35%、インドネシアが32%、南アフリカ、スリランカ、欧州連合(EU)が30%、そして日本と韓国が25%となっている。
これらは今年4月2日に示された税率にまだかなり近い。つまり、各国に対する米国の貿易赤字額を同じ国からの輸入額で除した値が決定的な要因になっている、あの尋常でない公式で得た数字に近いのだ。
こんなものはナンセンスな経済学だと、何度言っても言い足りない。
二国間の貿易収支を均衡させるべき理由など全くない。そして、均衡していないからと言って貿易黒字を出している側の国が「ずるをしている」わけでもない。
さらに言えば、モノの貿易収支、いやモノとサービスの貿易収支は、それぞれ独立に決まる国別の貿易収支の合計でもない。
一国の貿易収支は純要素所得、資本の流出入、そしてとりわけ総所得と総支出の間における相互作用の産物だ。
特に、少なくとも世界中の国が米国にカネを貸すつもりがある限り、米国は多額の貿易収支赤字と経常収支赤字を出さずに巨額の財政赤字を計上できるという考え方は、どうかしている。
諸外国が資金を融通するのをやめたら、一体どうなるか。その結果は金融の大混乱だ。