参院選でもSNSで情報戦が繰り広げられている(写真:アフロ)
7月20日に投開票される参院選が近づくにつれて、SNSでの情報戦が激しくなっている。SNSでの情報拡散は、どれだけ「政治的分極化」に影響を及ぼすのだろうか。米国の大統領選を中心に、先行研究を見てみよう。
(小泉秀人:一橋大学イノベーション研究センター専任講師)
兵庫県知事選・都知事選とSNSの政治的影響力
2024年7月の東京都知事選挙では、石丸伸二氏がSNSを駆使した選挙戦を展開し、「石丸旋風」と呼ばれる現象を巻き起こした。YouTubeやX(旧Twitter)での積極的な情報発信により支持を集め、従来の選挙戦の常識を覆す結果となった。
また、同年11月の兵庫県知事選挙でも、元県知事のパワハラ問題や「百条委員会」設置をめぐる議論がX上で激しく展開され、SNSが選挙結果に大きな影響を与えた。
与えるのは選挙への影響だけではなさそうで、国政や都議会選挙においても、かなり右寄りの政党や極端な政治的主張を持つ政党の躍進が目覚ましい。今回の参院選においては「外国人問題」が選挙における争点の一つになっている。
しかし、SNSが常に政治的分極化を促進するわけではない。近年経済学者などが行った大規模な実証研究は、SNSの影響が既存メディアからの情報量によって大きく左右されることを明らかにしている。
つまり、テレビや新聞などの既存メディアからの情報が不十分な場合にのみ、SNSの分極化への寄与が顕著になるのである。
2018年米国中間選挙:SNSが分極化を促進した事例
2018年の米国中間選挙前に行われたFacebookの利用停止実験は、SNSが政治的分極化に与える影響を実証した重要な研究である。この実験では、2743人のアメリカ人を対象に、無作為にFacebookの利用を停止するグループと停止しないグループに分けて4週間、「Facebook断食」をさせた。
無作為に選んでいるため、2つのグループに属性の差はない。違いはFacebookを使えるかどうかだけであるのがポイントだ。
実験の結果、政治的分極の標準偏差が0.16低下した。これは1996年から2018年の間に米国で観測された政治的分極化の増加分の約42%に相当する。それほど、政治的分極化を抑制する大きな効果があったということだ。
Facebookの利用を停止したグループは、ニュース消費に費やす時間が15%減少し、代わりにニュース以外のテレビ視聴や友人・家族との時間が増えた。この結果は、FacebookなどのSNSが、ニュースの消費量を増やす一方で、政治的分極化に大きく貢献していたことを示している。