くすぶるイランリスク

 イランのペゼシュキアン大統領は7月2日、イスラエルや米国による核施設攻撃への対抗措置として、国際原子力機関(IAEA)との協力を一時停止する法律を施行したことを明らかにした。これにより、「イランの核開発の進捗を把握しづらくなり、米国との対立が深まる」との警戒感が広がり、原油相場を押し上げた。

 イランの政情も不安定なままだ。

「イスラエルのスパイ活動に関与した」として700人以上が逮捕され、既に一部の人は処刑されたと言われているが、「不審な人物の動きなどを通報せよ」との政府の呼びかけに対する市民の反応は乏しく、「モサド狩り」は道半ばだ。

 BBCは25日、「イランの現体制がどれほど持ちこたえられるのか予測は難しいが、これは終わりの始まりのように見える」とする専門家の見解を伝えている。

 イランが支援しているイエメンのフーシ派の動きにも警戒が必要だ。

 フーシ派は28日「イスラエル南部に弾道ミサイルを発射した」と発表し、引き続きイスラエルへの攻撃を続けるとしている。

 気がかりなのは、「イラン系のソーシャルメディアがフーシ派に対し『サウジアラムコの石油施設を攻撃せよ』とのメッセージを発信している」との情報が流れていることだ。

 フーシ派は2019年9月にサウジアラムコの施設にドローン攻撃を仕掛け、大打撃を与えた前科がある。中東地域の親イラン勢力が弱体化する中、一人気を吐いているフーシ派がサウジアラビアに再び牙をむけば、世界の原油市場は大混乱に陥ることになる。

 このように、中東情勢は相変わらず不透明だ。米国産原油の輸入増加のおかげ(シェアは8%と史上最高を記録)で5月の日本の中東依存度は90%にまで下がったが、さらなる低下に向けて官民挙げた取り組みが必要不可欠だ。 

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。