EUは対中デリスキングから対米デリスキングに

 他方で、中国には米国に対抗するうえでの仲間が欲しいという思惑もあるようだ。中国とEUは、米トランプ政権が仕掛けてきたグローバル関税紛争の、いわば二大ターゲットである。理不尽な要求を突き付けてきた米国に共闘する相手として、敵の敵は味方という理屈から、中国はEUと手を結びたいようだ。

 これはその実、EUも同様だ。

 EUにとっての誤算は、対中デリスキングよりも「対米デリスキング」を優先する必要が出てきたことにある。EUはEUで、相互関税の影響を弱めようと、米国との間で通商協議を重ねている。仮に一定の妥協が成立しようと、EUは今後も、米国に対して一定の警戒感を持ち続ける必要があるし、過剰な依存は回避しなければならない。

 トランプ大統領の前回の任期の際もEUと米国の関係は悪化した。その後、民主党バイデン政権の下でEUと米国の関係は改善し蜜月となったが、トランプ大統領の再登板で状況は一変した。とりわけJ・D・バンス副大統領が2月にミュンヘン安全保障会議で放った“嫌ヨーロッパ発言”は、米国とEUの仲を急激に冷え込ませた。

 6月末に開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、加盟各国は防衛費を名目GDP(国内総生産)の5%まで引き上げると合意した。上機嫌だったトランプ大統領だが、一方のEUは自律的な防衛体制の構築を模索し始めており、米国の防衛企業の収入が増え、在欧米軍の経費をもっと徴収できるというトランプ大統領の期待は裏切られるかもしれない。