米半導体大手エヌビディア(NVIDIA)は先頃、欧州におけるAI開発を強力に推進する新たな戦略を発表した。
AI検索の米新興パープレキシティ(Perplexity)との提携や、ドイツでの産業向けAIクラウド構築などを通じて、欧州の「AI主権」確立を後押しする。
計画の詳細は6月11日、フランス・パリで開催された技術イベント「Viva Technology(ビバテクノロジー)」で明らかにされた。
米中の巨大IT企業への依存から脱却し、欧州独自のAIエコシステム構築を目指す動きを、インフラ面から支える構えだ。
地域密着型AI開発へ大型提携
戦略の中核をなすのが、リアルタイムの情報を反映できる「オンラインAIモデル」で評価を高めるパープレキシティとの提携だ。
エヌビディアは自社のAIプラットフォームを通じて、パープレキシティの先進的なAI検索技術を欧州通信会社などに提供する。
最初の導入企業として、フランスの通信大手イリアッド(Iliad)グループや、スペインのテレフォニカ傘下でドイツ国内で事業展開するO2などが名を連ねた。
通信事業者は、数百万から数千万単位の広範な顧客基盤を持つ。
これらの事業者が自社のネットワークを通じて、各国の言語や文化、地域の特性を深く理解したAIアシスタントサービスを提供できるようになる。
「AI主権」を各国の手に
一連の動きの最大の狙いは、欧州各国で近年強く叫ばれている「AI主権(Sovereign AI、国家独自のAI)」の確立を支援することにある。
これは、米国の巨大IT企業の汎用的なAIサービスへの一方向の依存を避けるものだ。
自国の言語、文化、価値観、そして厳格なプライバシー規制(GDPR、一般データ保護規則など)に準拠したAIを、自らの管理下で開発・運用すべきだという考え方である。
エヌビディアのジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)は基調講演で、「すべての国は、自国のデータという“国の宝”を、自らの手で洗練させ、独自のAIという国家の知性を生み出す必要がある」と強調した。
今回の提携は、欧州企業にとって重要な一歩となる。
機密性の高い顧客データや産業データを国外に送ることなく、国内で安全に処理しながら最新のAI技術を活用できるようになるからだ。これは、経済安全保障の観点からも重要な意味を持つ。