なぜ「唐揚げ1個」になってしまったのか?

井上:自治体にもよりますが、一般的には3カ月〜半年くらいでしょうか。教育委員会等が設置する委員会から「この日のメニューは唐揚げにしましょう」と決定があるイメージです。

 ところが、物価高で往々にして計画との齟齬(そご)が生まれてしまいます。(献立が決まった)3カ月後には「鶏もも肉」や「片栗粉」などの原材料の価格が発注時よりも高騰している場合が多いでしょう。つまり、献立を決めた日から実際に作るまでの期間にギャップが生まれているのです。

 そこで、給食会社と教育委員会等がやりとりし、使用する食材や品目数の変更に踏み切ります。

井上 裕基(いのうえ・ゆうき) 日本給食業経営総合研究所取締役副社長 大手乳製品乳酸菌飲料ヤクルトの販売会社、東証プライム上場 国内コンサルティングファームの船井総合研究所で給食業界の経営コンサルタントを経て独立し現職に至る。全国に給食会社の顧問先を持ち、専門領域は産業給食/事業所給食/委託給食/介護施設給食/病院給食/配食サービスと給食業全般をカバーする。基本の業績アップから商品開発・新規事業の立ち上げ等、給食会社の成長戦略や戦術構築に加え、病院・介護施設の給食部門に対する業務改善や経営指導を行う実績も保有する。

──では、自治体が決めていた4月某日のメニューは、例えば「唐揚げ2個」だった可能性もあると。

井上:十分に考えられますね。他の給食会社でも、「卵スープをワカメスープに」「挽肉を大豆に」といった原材料の変更には試行錯誤があります。

 給食会社としては予算が決まっているので、原材料の高騰分の価格転嫁はできません。よって、より安い原材料を使うか、おかずの中身を減らすか、といった対応しかできないのです。

 まして、大胆なメニュー変更はできず、カロリーや栄養素も満たさなければいけない。給食会社は、とても厳しい環境に置かれているのです。2025年に入ってからは「もう学校給食事業には手を出せない」と決めた老舗の給食会社もあるほどです。

 実際、今回この給食を作った福岡市学校給食公社も、メニューとしては基準である「600キロカロリー」を満たしているわけです。確かに写真としては衝撃的ですが、給食会社は厳しい環境の中で努力していることを忘れてほしくありません。

──福岡市教育委員会によると、2025年度の学校給食において1食あたりにかかるコストは「289.47円」で、10年前から約2割増になっているとのことです。一方で、保護者から徴収する給食費用は小学校で4200円、中学校で5000円と過去10年間据え置かれているとしています。