上記記事でも記した通り、本件には2人の被告がいます。一人は、不正と知りながら自車(ジムニー)の改造を繰り返し、「道路運送車両法違反」で起訴された所有者・田中正満被告(51)。もう一人は、田中被告からこの車の改造を依頼され、試運転中に今回の脱輪事故を起こして「自動車運転処罰法違反」で起訴されていた若本豊嗣被告(51)です。
判決確定から1カ月、父親は悔しい胸の内をこう語りました。
「渡邉史朗裁判長は、『幼く、未来ある被害者が受けた障害は非常に重大で、意思疎通できない理不尽な状況にある』と述べ、被告らに対しては、『不正改造の中でも、事故の危険性を高める部類の改造であり、相応に悪質である』と厳しく指摘しました。しかし、いくら悪質であっても、結局この程度で済むんですね。被害の大きさと刑罰のバランスがまったく取れておらず、私自身、この結果をいまだに受け入れることができません」
運転者は交通事犯で前科4犯
では、裁判官はそれぞれの被告の責任について、どのように認定したのでしょうか。判決文の内容を抜粋します。
【事故の事実】
両被告は2023年10月28日、共謀して軽RV(ジムニー)のタイヤを不正に改造。前輪に異常を感じた所有者の田中被告は、若本被告に点検を依頼した。若本被告は同年11月14日、ナットの緩みに気付かないまま運転し、脱落した左前輪を女児に衝突させた。
【所有者/田中被告】
●車両の所有者であり、改造を主導したということで、負うべき責任が大きい。
●ホイールナットの緩みを助長させた責任は、一時的には所有者の田中にあり、田中が点検するべきものであった。そのため、若本(運転者)ばかりを大きく責めることは難しい。
●両者の供述内容をふまえると、田中はその内容が小出しに変遷しており、若本の具体的かつ合理的なそれと比べて信用性に欠ける。
●しかし、田中には前科もなく規範意識の甘さを悔いている。
【運転者/若本被告】
●若本本人が行った作業として認定できるもののうち、タイヤ突出の中核を担ったとは言い難い。しかし、不具合の可能性に思い至り、運転を控えることや点検義務を果たすことは容易だったはず。
●走行にあたっては高い注意義務を負っていたといえ、それを怠り、漫然と運転した過失は悪質。
●若本は整備業経験者であったが、本件車両の点検は業務として応じていたのではないため、特別に高度な注意義務があったというのは相当ではない。
●若本は交通事犯の前科4犯を有するが、自己の過ちを認め、今後は運転をしないと誓うなど反省が見られる。
●以上から、若本の過失を重大とまで評価するのはいささか躊躇を覚える。

判決文に目を通した父親は、驚きを隠せない様子で語ります。
「まず、若本被告が交通だけで前科4犯だったということに目を疑いました。過去にも人身事故を起こし、また無免許運転でも検挙されていたようです。こうした履歴がありながら、他人名義、しかも任意保険未加入の不正改造車を平気で運転できるものでしょうか」