政府の真の狙いは?
いわば究極の「論点ずらし」によって始まった学術会議の「改革」だが、政府の狙いは任命拒否問題をうやむやにし、会員選考への間接的介入を合法化することだけではないだろう。
それが透けて見えるのが、法案の中で現行法から消えた文言だ。「科学が文化国家の基礎」「わが国の平和的復興」といった従来の理念を示す前文が削除された一方で、「学術に関する知見が(中略)経済社会の健全な発展の基盤となる」が盛り込まれた。
「独立して職務を行う」という表現もなくなった。国が運営上の「自主性及び自立性」に「配慮」すべきとしているものの、独立性を担保する言葉は見られない。一方、「内閣総理大臣」が登場する箇所は、現行法の7回から44回に増えた。
「平和」が消えた背景には、おそらく「デュアルユース(軍民両用)研究」を推進したいという政府の思惑もあるだろう。
学術会議は、先の大戦で科学者が戦争に協力したことへの深い反省に基づき、1959年と1967年の2回にわたり軍事研究は行わないと宣言し、2017年の声明でも軍事的安全保障研究への懸念を表明したが、それらに対し、これまで複数の閣僚や自民党幹部が苛立ちや疑問を呈してきたからだ。
例えば下村博文・自民党政調会長(当時)は、任命拒否から間もない2020年11月の毎日新聞によるインタビューで「そこまでこだわるのであれば、行政機関から外れてやるべきではないか」と述べている。