法案の問題点
筆者がなぜそれほどの危機感を持っているのか、その理由を説明する前に、すでに指摘されている問題点を簡単に整理しておきたい。
ナショナルアカデミー、すなわち国の科学者コミュニティを代表して政策提言をする学術団体は主要各国にあり、日本でその役割を担っているのが学術会議だ。
自然科学から人文・社会科学まで幅広い分野から選出された会員210人が検討や議論を重ね、政府や社会に対する科学的助言として、年間数十件の提言や報告、勧告などをまとめている。40を超える国際学術団体に加入し、国際会議を共同主催するなど、海外の科学者コミュニティとの交流も盛んだ。
現在の学術会議は政府から独立した国の特別機関という位置付けだが、今回の法案では、国から独立させ、特殊法人として再編するとしている。
法案で最も問題視されているのは、会員の選考や日々の活動への政府の介入を可能にする、新たな仕組みが盛り込まれていることだ。
まず選考についてみてみよう。
現在は現会員が自分たちで次の会員候補者を推薦する方法(コ・オプテーション)で、これは各国の多くのナショナルアカデミーが採用する標準的な会員選考方式として知られる。
一方、2026年10月の新法人発足時とその3年後の会員選定では、特別に設置された選考委員会が候補者を選ぶ。この委員会のメンバーは、会長が首相の指定する学識経験者と協議して決めなければならない。
その後は会員で構成された委員会が候補者を選ぶが、その際、会員以外で構成される「選定助言委員会」に意見を聞くことが半ば義務付けられている。

活動に関しても外部から目を光らせる仕組みができる。いずれも会員以外で構成される「運営助言委員会」、「監事」、「評価委員会」が新たに設置されるのだ。監事と評価委員会のメンバーは首相が任命する。
幾重にも張り巡らされた管理システム。これでは新法人が現在のような独立性や自律性を保てなくなるのは必至だ。