中国R&D拠点の役割、コア設計は中国国外で
新設される上海R&Dセンターは、主に中国顧客の需要分析、製品のローカライズ、既存製品の最適化、自動運転分野などの研究開発を担うとみられる。
チップ設計の検証作業など、グローバルなR&Dプロジェクトの役割も担う見込みだ。
ただ、エヌビディアは知的財産保護を重視している。そのため、GPU(画像処理半導体)などのコア設計や生産自体は、引き続き中国国外で行う方針を明確にしている。
「輸出規制に準拠するためにGPU設計を中国に送り、現地で修正することはない」「中国のいかなる場所でもチップの再設計は行わない」と同社広報は強調している。
米国の輸出規制に対し、エヌビディアはこれまで、チップのスペックを落とした「ダウングレード版」を中国市場に提供することで対応してきた。
WSJによれば、エヌビディアは、より先進的な「Blackwell(ブラックウェル)」アーキテクチャーをベースとした規制準拠チップの設計も進めていると顧客に伝えている。
こうした動きに対し、一部の米当局者からは「エヌビディアは中国のAI技術進展を抑制することに非協力的だ」との批判も出ている。
米商務省産業安全保障局(BIS)は2025年5月13日、国内外の企業に対し警告を発した。
ファーウェイ製AI半導体「昇騰(Ascend)」の使用が米国輸出管理規則に違反するリスクを伴い、法執行措置の対象となる可能性があるという内容である。
中国市場での攻防とNVIDIAの課題
中国市場では、ファーウェイなどの国内企業がエヌビディア代替製品でシェア拡大を狙っている。
こうした中、北京字節跳動科技(バイトダンス)、アリババ集団、騰訊控股(テンセント)といった中国のテック大手は状況を注視している。
中国のニーズを満たすチップをエヌビディアがいかに提供できるか、地政学的な動向とともに注目している。
エヌビディアは上海R&Dセンターの設立を通じて、米国の厳しい輸出規制と巨大な中国市場のニーズとの間で難しい舵取りを迫られることになる。
中国向け新チップ開発には米国の承認が不可欠であり、米政府が今後、輸出規則の詳細を最終決定する動きにも注目が集まる。
今後の展開においては、米中間の地政学的緊張の行方や、輸出規制のさらなる変更リスクが常に伴う。同時に、中国国内メーカーとの競争激化も予想される。
エヌビディアがこれらの課題を克服し、中国市場での足場を維持できるか、その戦略が試されることになる。