台北で開催された見本市で記者の質問に答えるエヌビディアのジェンスン・フアンCEO(5月21日、写真:ロイター/アフロ)

 半導体大手の米エヌビディア(NVIDIA)の中国向けAI半導体戦略が、重大な岐路に立たされている。

 同社のジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)は2025年5月17日、中国市場向けに性能を調整して提供した「H20」チップの後継となる次期製品について、「Hopper(ホッパー)アーキテクチャーをベースにしたものではない」とする意向を初めて明らかにした(英ロイター通信)。

 この発言に続き、ロイター通信は5月24日、エヌビディアが中国市場向けに、H20よりも大幅に安価な新しいAIチップセットを投入し、早ければ6月にも量産を開始する計画だと報じた

 H20は、2022年に導入されたHopperアーキテクチャーに基づくチップ。

 これに対し、中国向け新チップは最新世代の「Blackwell(ブラックウェル)」アーキテクチャーを採用し、価格は6500~8000ドル(約90万~120万円)程度になる見込み。

 これは、H20の価格帯である1万~1万2000ドル(約150万~170万円)を大きく下回る。

フアンCEO「これ以上の修正は不可能」、次世代中国向けは新設計Blackwellへ

 5月17日、台湾の民視新聞網(Formosa TV News network)がライブストリームを報じた。

 その中でフアンCEOは、中国市場向け次期チップに関する質問に対し、「それはHopperではない。Hopperをこれ以上修正(modify)することは不可能だからだ」と明言した。

 この発言は、エヌビディアがこれまで取ってきた戦略からの大きな転換を示唆する。

 同社は近年、米政府の規制に対応するため、Hopperシリーズの性能を抑制してきた経緯があるからだ。

 H20は高性能な「H100」をベースに、米国の輸出規制に抵触しないよう性能を落とした中国市場向けの製品だ。

 しかし、このH20に対しても米政府が規制を課したことで、エヌビディアの対応はより困難になっていた。

 フアンCEOの発言は、Hopperアーキテクチャー枠内での性能調整では、もはや中国市場のニーズと米規制の双方を満たすことが限界に達したという認識を示すものとなった。

 そして、5月24日のロイター報道によって、次期中国向け製品の具体的な姿が見えてきた。

 それはBlackwellアーキテクチャーを採用した新しいGPU(画像処理半導体)だ。

 サーバークラスの「RTX Pro 6000D」をベースとし、従来のGDDR7メモリーを使用。先端パッケージング技術であるCoWoS(コワース)は用いないという。

 この仕様により、コストを抑え、米国の輸出規制をクリアすることを目指している。

 中国GF証券はこの中国向け新GPUの名称が「6000D」または「B40」になる可能性が高いと予測している。

H20修正版計画はここでストップ、Blackwellベースの新チップが本命か

 フアンCEOがHopperシリーズではない次期製品の可能性に言及する前の5月9日、ロイター通信は、エヌビディアがH20の性能をダウングレードしたチップを今後2カ月以内に中国市場に投入する計画だと報じていた。

 5月24日の最新報道によれば、同社は結局この計画を断念した。

 これにより、H20の単純な修正版ではなく、Blackwellアーキテクチャーに基づく全く新しい設計が、中国市場向け戦略の本命であることが濃厚となった。

 早ければ6月にも量産開始というスケジュールは、同社がこの状況に迅速に対処しようとしている姿勢の表れだ。

 情報筋によると、エヌビディアはこれとは別に、もう一つの中国向けチップを開発中で、こちらは9月にも生産開始するという。