(写真:ZUMA Press/アフロ)

 米アップルは、スマートフォン「iPhone」の主要製造拠点である中国への依存リスクと米国の対中関税の影響を回避するため、インドでの生産体制強化を加速させている。インド大手財閥タタ・グループの新工場がiPhoneの生産を開始したほか、電子機器受託製造サービス(EMS)大手の台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業も近く新工場を稼働させる見通しで、インドが代替製造拠点としての重要性を急速に高めている。

米中対立が引き金、供給網再編の経緯

 米中間の貿易摩擦が続くなか、アップルはインドを中国に代わる重要な製造拠点と位置づける戦略を進めている。これにより、サプライチェーン(供給網)の混乱リスクや、関税によるiPhone価格上昇への懸念に対応する。

 トランプ米政権は中国製品に対して累計145%に達する高関税を課すなど、米中間の貿易摩擦はアップルのようなグローバル企業に大きな影響を与えてきた。直近では2025年5月12日の米中会談において、双方が互いに課した追加関税を115%ポイント引き下げることで合意し、米国の対中関税は一時的に30%まで引き下げられた。しかし、この措置は90日間という期限付きの一時休戦であり、期間終了後には一部関税(上乗せ部分の24%)が再適用され、54%となる可能性も指摘されている。

 こうした中、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が2025年5月15日に報じたところによると、トランプ大統領は改めてアップルにiPhoneの米国内生産を強く求め、ティム・クックCEO(最高経営責任者)による生産の一部インド移管計画をけん制した。米政権の意向も依然として注視する必要がある。

 米中が互いに100%を超える関税を課すという異例の事態はひとまず緩和されたものの、「税率がこの水準近くにとどまったとしても経済に著しい影響をもたらす公算は大きい」とする警戒感も出ている。スマホやパソコン、半導体製造装置などは、米国による相互関税の対象からは除外されているが、これらが別の枠組みで新たな関税の対象となるリスクや、地政学的な緊張によるサプライチェーンの不安定性は依然として存在する。アップルにとって生産拠点の分散は引き続き喫緊の課題だ。

 8年前の2017年、アップルは第1次トランプ政権の対中関税政策を機に、いわゆる「チャイナ・プラス・ワン」と呼ばれる戦略を本格化させた。これは、中国のサプライヤーに加え、他の国のサプライヤーを追加・活用することだ。その投資先となったのは、最大の人口規模を持つ民主主義国家で、巨大な市場を抱えるインドだった。

 アップルはこの年、EMS大手の台湾・緯創資通(ウィストロン)と連携し、インドでiPhoneの生産を始めた。その後、ホンハイや台湾・和碩聯合科技(ペガトロン)がインド生産を開始した。インドの大手財閥タタ・グループが2023年に買収した、ウィストロンのベンガルール近郊の工場でもiPhoneを製造している。

 アップルは、こうしたEMSを通じてインドでのiPhone製造を拡大させており、2025年は同国で約2500万台を生産するという目標を掲げている。

タタに続きホンハイも、インド新工場で生産能力増強

 英ロイター通信によると、インド南部タミルナドゥ州ホスールにあるタタ・エレクトロニクスの新工場が2025年4月下旬に稼働を開始した。1本の組立ラインで旧モデルのiPhoneを製造しているという。タタは比較的新しいアップルのサプライヤーだが、インドの主要な委託生産先として急速に存在感を増している。