トランプ米政権は2025年5月12日、バイデン前政権時代に策定されたAI(人工知能)用半導体の輸出規制案を正式に撤回すると明らかにした。
より簡素な新規制を導入する方針もあらためて示された。これに先立ち、トランプ政権は同様の方針を示唆していたが、5月12日の発表はこれを追認する形となった。
バイデン前政権の規制案は、「過度に複雑で官僚的」であり、米国の技術革新を阻害するとの産業界からの批判に加え、中東諸国などとの外交関係への影響も懸念されていた。
これは、米国のAI分野での優位性を確保しつつ、米企業の国際的な事業展開を後押しするとみられる。今後は国家安全保障上の懸念解消との両立が課題となる。
撤回されたバイデン前米政権の規制案とは?
見直しの対象となっていたのは、バイデン政権末期の2025年1月に公表され、5月15日に発効予定だった輸出規制案「AI拡散に関する枠組み(U.S. Framework for Artificial Intelligence Diffusion)」。
その主な目的は、高性能AI半導体と関連技術の輸出を厳格に管理し、中国などによる軍事技術への転用を防ぎ、AI分野における米国の主導的地位を維持することだった。
具体的には、世界各国を以下の3つの階層(ティア)に分類していた。
1. ティア1:米国の同盟国など17カ国と台湾。これらの国・地域へは先端AI半導体を制限なく輸出可能。
2. ティア2:インド、スイス、メキシコ、イスラエル、中東諸国など約120カ国(同盟国でも懸念国でもない「友好国」)。これら各国へ輸出できる半導体の数量に上限が設けられる。
3. ティア3:中国、ロシア、イラン、北朝鮮などの懸念国。これら22カ国に対しては、従来の先端AI半導体の輸出禁止措置に加え、この規制案では最先端AI基盤モデルなどの技術移転も禁止する、という内容だった。
トランプ政権の新方針:規制を簡素化、国際競争力と外交関係に配慮
こうした階層型の規制案に対し、トランプ政権は5月初旬から見直しの意向を示していた。
英ロイター通信によると、米商務省の報道官はバイデン前政権の規則案について「過度に複雑、過度に官僚的であり、米国の技術革新を阻害するものだ」と批判。
「我々は、米国の技術革新を解き放ち、米国のAIにおける優位性を確実にする、はるかに簡素な規則に置き換える」と表明した。
そして、ドナルド・トランプ大統領の中東訪問に合わせて、この規制案の正式な撤回が示された。
背景には、ティア2に指定されたサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)など中東諸国からの反発があったとみられる。専門家らは、外交上の配慮や一部友好国からの懸念が影響したとみている。
トランプ政権の狙いは、煩雑な規制を簡素化することで、米ハイテク企業の技術開発力を後押しし、国際競争力を高めることにある。
また、同盟国や友好国との協調を維持しつつ、より柔軟な対応を可能にすることで、経済安全保障と産業振興の両立を目指す。