前代未聞の裁判官選挙、その驚きの投票率

ロメロ:候補者の数が多いうえに、準備する時間もありませんでしたので、とても混乱しました。

 憲法改正および裁判官の普通選挙の実施が決まったのは2024年9月で、実際の投票は2025年6月。しかも、これほど大規模な裁判官の選挙は前例がありませんので、やり方から考える必要がありました。規定を定めた文章も非常に複雑なものになり、国民がその内容を十分に読み込んだり理解したりする時間もありませんでした。

 連邦裁判所の裁判官だけでも881のポストの選挙があり(残りの連邦判事の選挙は2027年に行われる予定)、およそ1800の地方裁判官のポストを決める必要があります。多くの地域では、100人以上の候補者の中から適切な人物を選ばなければなりませんでしたが、候補者の特徴や個々の主張について有権者が知る時間も十分にはありませんでした。

 そもそも多くの人は、どんな裁判所があり、どのような裁判官のポジションがあるのかなど、司法システムに関する知識も乏しいままに投票に向かうのです。結果的に投票率はわずか13%でした。

──今回の選挙で、どのような可能性と問題が発生すると想像しましたか?

ロメロ:こうした規模の裁判官の選挙は、これまで行われたことがないので、前例から論じることはできませんが、数々の問題があると思います。

 まず、政治家は公約を掲げ、実現を約束して国民から選ばれますが、裁判官は何を約束して選ばれるのかという問題があります。正確に審議すること、あるいは一生懸命仕事に取り組むことを約束するのか……。有権者は選ぶ基準がよく分からなかったと思います。

 裁判官の職務は、人気や知名度で決まるものではないはずです。目の前で語られた裁判の内容があり、法律と証拠を突き合わせながら、過去の判例を考慮して論理的に判決を導き出すのが裁判官です。もちろん、裁判官は被告や原告と利害関係があってはなりません。

 でも、モレナなどの政党は、今後は自分たちの政策を止めない裁判官を応援するでしょう。動員力があるので自分たちの推す候補者を勝たせることができる。政権の体制強化という意図があることは疑う余地がありません。

 その結果、政党に限らずさまざまな組織が、自分たちに都合のいい判決を出してくれる裁判官を勝たせることも可能になります。

 麻薬カルテルのような犯罪組織が、都合のいい裁判官を応援したらどうなるでしょうか。政治の抑制や権力の均衡のシステムが崩れるばかりか、司法が根本から崩壊する可能性があります。今回は法律の世界の経験が乏しい候補者も散見されましたが、そんな候補でも注目を集めれば勝ててしまう。

メキシコの麻薬王エル・チャポの息子ホアキン・グスマン・ロペスの逮捕を報じる新聞(写真:ロイター/アフロ)メキシコの麻薬王エル・チャポの息子ホアキン・グスマン・ロペスの逮捕を報じる新聞(写真:ロイター/アフロ)