「正義は人気投票ではない」
──候補者は、皆自分で選挙活動費を用意したのですか?
ロメロ:候補者は選挙活動費を外部から受け取ってはいけない決まりになっています。ところが、実際にはその候補を勝たせるためのファンドが作られていました。特に最高裁の裁判官で見られました。
本来は選挙管理員会(INE)が不正に選挙資金を集めているところに介入すべきですが、柔軟な解釈によって半ば見過ごされました。また、お金のない多くの候補者たちは、SNSで自分の主張を訴えましたが、このような不公平も大いに問題です。
──裁判官には、さほどパフォーマンス力など求められないはずですが、選挙となれば、人柄やパフォーマンスが力強く作用します。しかも、自前で選挙活動費を用意しなければならないとなると、財力のある候補者のほうが勝ちやすくなってしまいますね。
ロメロ:その通りです。さまざまな観点から、かなり公平性を欠いた選挙だったと思います。各地で投票ガイド(誰に投票すべきかアドバイスする資料)が配られた疑いがあり、INEが事実確認の調査をしています。政党が有利に選挙を進めるためにそのようなガイドを配布した可能性があるのです。
オブラドール氏は大統領時代に、定例記者会見でしばしば対立関係にある裁判官を犯罪者呼ばわりしていましたが、裁判官は犯罪者ではありません。法律、憲法、過去の判例、集めた証拠を総合的に検討して、しかるべき判決を出す者です。
国民はどんな状況の人でも、どんな思想の人でも、法の原則のもとに平等に裁かれなければなりません。その裁判官が評価の対象になれば、人々の利益や感情的な声が判決を左右するようになる可能性があります。「正義は人気投票ではない」と書かれた横断幕を掲げるデモ活動も見られました。
ルイス・ゴメス・ロメロ(Luis Gómez Romero)
ウーロンゴン大学上級講師(専門は人権、憲法、法理論)
メキシコで弁護士として活動し、訴訟、コンサルティング、法・政策研究の分野で経験を積んだ。メキシコ大統領ビセンテ・フォックス率いる暫定政権の高官政策顧問を務めた。スペインのマドリード・カルロス3世大学で人権学の博士号を取得し、メキシコ、スペイン、コロンビア、カナダ、オーストラリアなどの大学で、法学、憲法、国際法、法研究、人権の分野で教鞭を執る。主な研究分野は、人権、政治理論、文化法学、国際法への第三世界のアプローチ、ユートピア主義、法と文学、法と大衆文化、批判的法理論、フェミニスト法学、ラテンアメリカの歴史と政治、ヨーロッパの歴史と政治。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。