右派勢力間の争いが政情不安につながる可能性も

 原発シフトをドライバーとして固定資産投資が堅調に推移し、ポーランド景気は好調に推移するというのが、内外での統一した見方である。言い換えると、PiSがEUとの間で対立を深めて、EUからの資金配分が再び停止されれば、PiSは自らが主導した原発シフトを進められなくなる。そうなれば、ポーランド経済は高成長を謳歌できない。

 それに、PiSにとっての本当の脅威は、同じ右派からライバル政党が台頭してくることにあると言える。それが冒頭で述べた同盟の存在だ。政党会派別支持率調査を確認すると、同盟の支持率は月日を経るごとに上昇しており、これまでPOやPiSに次ぐ第三勢力として機能していた中道会派「第三の道」(TD)の支持率を抜き去って久しい(図表)。

【図表 政治会派別の支持率調査】

(出所)CBOS

 ポーランドの国政選挙は比例代表制で行われるため、このままなら同盟の獲得議席数は大幅に増えると予想される。今回の大統領選では、敵の敵は味方の理屈から、同盟の支持者もナヴロツキ氏の応援に回ったようだ。しかし次回の総選挙では、同盟は議会での躍進を図る観点から独自候補を多く擁立し、PiSと保守票を奪い合うことになる。

 選挙結果を受けてPiSと同盟が右派連立政権を組んでも、両党間の勢力争いが生じるため、政権運営はうまくいかない。同盟の支持者を取り込もうとPiSが先鋭化すれば、EUとの関係はさらに悪化し、ポーランドの経済成長に必要な所得移転を受けることができなくなる。こうしたジレンマを抱えたポーランドの右派回帰は、その実、多難である。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。