私設美術館から公立へ、「JIA25年賞」にも選定

 守一が亡くなった8年後、次女で画家の熊谷榧(かや)氏が旧居の跡地に私設の熊谷守一美術館とギャラリーKAYAを開設した。設計は榧氏の逗子の自宅も設計したI.C.D建築設計事務所の岡秀世氏が担当した。

 2007年、榧氏は父・守一の作品153点を豊島区に寄贈し、豊島区立 熊谷守一美術館となる。区の直営ではなく、榧氏とその従業員が設立した株式会社榧が、指定管理者として運営する形態だ。2012年度には、日本建築家協会が表彰する「JIA25年賞」に選ばれている。

 まずは、その講評を引用して全体像をつかんでいただこう(太字部)。

熊谷守一美術館(現・豊島区立 熊谷守一美術館)
設計者:岡 秀世 旧・ICD建築設計事務所
建築主:熊谷 榧
施工者:バウ建設
竣工年:1985年5月
所在地:東京都豊島区

講評:通りに面して2層、奥に半地下+2層。住宅街に控えめ。画家、熊谷さんの蟻の絵が壁に彫り込まれ、緑の木々とともに美術館としてのメッセージ。内側ブロック積み型枠として外側に断熱、コンクリート打設。半地下のコーヒーショップに座ると庭が近い。窓枠が消されて鮮やかな開口。外に合成ゴムを回し、強化ガラスを手前に引くディテール。内部扉はコンクリートの壁に引き込み。圧巻は1階、右奥のギャラリー、床が緩やかな曲線を描いて下っていく。強烈に「ここに建つ建築」を意識化している。設計者のこだわりが見事に形になっている。(審査委員:中原洋)

 30年前、筆者が何の予備知識もなく行ったときには、「蟻の絵」の壁が心にすごく刺さった。「コンクリートの壁に直接絵を刻む」というストレートな手段が、当時、難解な建築ばかり見せられていた自分の心を解きほぐす感じがしたのである。

 30年ぶりに見て、それ以外の中原洋氏のコメントにもいちいち「その通り!」と思った。さすが名編集者の中原氏(中原編集室)。もう一度、コメントをばらして引用させていただく。

・通りに面して2層、奥に半地下+2層。住宅街に控えめ。

前面道路から見ると、2階建ての小住宅にしか見えない
北側は3層だが、1階が半地下で最上階がボールト屋根なので、2階建てくらいに見える

・内側ブロック積み型枠として外側に断熱、コンクリート打設。

1階の展示室。展示室がコンクリートブロック積みって相当珍しい。当初はここだけが守一の作品を展示するスペースだった