トランプ関税の「圧力」

 こうした空気感を受けて、フェイクニュースがつくられ、あるいはフェイクニュースとわかっていても、拡散させて中国内外の世論に影響を与えようという心理が、中国の未来に関心を寄せる中国内外の人々の間にあるのではないか。

 トランプ政権は本気で中国共産党体制崩壊にまで追い込むつもりで関税戦争、資本戦争、金融戦争を仕掛けてくるかもしれないという危機感を中国の少なくない官僚たちは持っているだろう。5月12日に米中関税戦争はひとまず90日間の休戦に合意したが、習近平が今の状態のままであれば、モラトリアムの期限が切れた段階で、米中対立はさらに先鋭化するだろう。

 もし、その前に習近平が自ら引退してくれたら。そういう期待が、噂をつくり、噂を広め、そして噂を「事実」にしていこうとするのだろう。

福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。