フェイクでも拡散されるワケ

 そもそも5月14日に政治局拡大会議が開催された形跡はみあたらない。おそらくは胡錦涛と張又侠が、習近平に四中全会で引退するよう迫った、「たとえ内戦になったとしても」といった発言などは典型的な「フェイク」だろう。

 政治の季節になると、人気のチャイナウォッチャーがあえてフェイクニュースを流すことがよくある。たとえば、5月5日に中央弁公庁が「目下の任務大局を妨害する極左思想の防止に関する通知」を発表した、というフェイクニュース。わざわざ2025年11号文書というナンバーまでつけた原稿に仕立てた文書がSNSに拡散されたが、これはフェイクだろう。

 だが、多くのチャイナウォッチャーたちがこの通知を転載し、中央弁公庁主任の蔡奇が「習近平に反旗を翻した」根拠としていた。つまり、習近平の権勢が衰えており、子飼いの部下で福建閥の筆頭の蔡奇にまで離反している、という説を拡散しようとしたのだった。

 さて、多くの名だたるチャイナウォッチャーたちが、「ほんとか知らんけど」とうそぶきながら、こうした「噂」を一斉に流したのには、それなりに背景があると思われる。

 一つは、党中央外で習近平引退を望む空気感が実際に漂っているのだろう。

 実際、習近平政権自身が、これまでの十数年余りの執政がうまくいっていないと気付いている気配はある。以前ほど、「習近平を核心とする党中央の指導」という形容詞を公式の場で使わなくなったし、改革開放逆走路線を修正しようとしているような気配もある。

 たとえば最近の地方人事をみればそう思える。