習近平引退を望む空気感

 直轄都市の天津市副市長だった劉桂平が天津市副書記に昇進したことを、天津日報が5月24日に報じていた。彼は王岐山の部下で、金融閥出身の経済博士だ。天津市の書記は陳敏爾で、天津市人事は本来、習近平の意向を汲んで陳敏爾がコミットしそうなものだが、王岐山金融閥が昇進してきた。

 陳敏爾は習近平政権1期目に習近平にかわいがられ貴州省書記、重慶市書記を経て天津市書記に駆け上ったが、行政上の大きな功績は見当たらず、無能の烙印が押され、どうやら習近平の寵愛も失っている。

 同じ文脈で中国銀行董事長だった葛海蛟が山西省長に転出したことも注目された。前任者の金湘軍は習近平人事であり、彼が規律違反で失脚したあとに王岐山系金融閥が来たことは、習近平の権勢の弱まりを示しているのではないか、という見方がある。金融専門家が地方行政実務トップにいきなり配置されるのはまれで、うまくいくかは別として、地方金融の建て直しが急務とされていることの現れであろう。

 習近平は政権1期目で王岐山と協力し反腐敗キャンペーンで政敵を排除したが、その後王岐山と対立、王岐山の海南航空集団利権をつぶす形で王岐山に圧力をかけ、王岐山系金融官僚も大勢粛清されていた。だが、ここにきて、習近平は王岐山閥の復活を認めるように軌道修正してきたように見える。

 また胡春華の存在感が増してきていることも注目される。胡春華は政治局委員、副首相まで出世したにもかかわらず、習近平にその優秀さを警戒されて第20回党大会で政治局から排除された共青団派の官僚政治家だ。現在ヒラの中央委員で政治協商会議副主席という閑職にある。

 だが4月、ナイジェリア、コートジボワール、セネガルの3カ国公式訪問を行い、これらの国の首脳と会談した。政治局メンバーでもない胡春華が重要なアフリカ外交で活躍していることも注目すべきだが、新華社報道が、胡春華の外交について報じるときに、相手国首脳が「習近平主席によろしくお伝えください、と語った」といった、代理外交定型文をあえて入れていないことも驚きだ。つまり胡春華外交は習近平の代理で行われているのではない、ということだ。

 さらに、5月25日、胡春華が、ベトナムの元国家主席、チャン・ドク・ルオンの死去に際して、ベトナム大使館にわざわざ赴いて弔問をおこなったと、新華社が報じたことも異例だ。チャン・ドク・ルオンはドイモイの推進者。ヒラの中央委員に過ぎない胡春華の、ベトナム改革開放指導者の弔問を新華社が敢えて報じるのには含みがあると言っていいだろう。

 つまり習近平外交はこれまでさんざん失敗しており、排除されていた共青団エースがそれをリカバリーしている、しかも鄧小平路線の正式な後継者。新華社含め、党内での共青団派復活への期待度が感じられないか。