日米欧5つの中央銀行は4月6日、各中銀が米連邦準備制度理事会(FRB)に対し、円やユーロなど「ドル以外」の資金を融通する通貨スワップ協定を締結した。米金融機関の外貨調達を支援するのが目的だが、間接的にはドル自体を支援する効果もあると考えられる。実際に協定の中味は、ドルを防衛する際の為替介入と同じ原理だ。やや深読みにはなるが、今回の協定を解きほぐしつつ、いずれ起こり得る「ドル防衛介入」のメカニズムを考察してみたい。
今回のスワップ協定は、日欧の中央銀行がそれぞれの通貨をFRBに供与するもの。具体的には、米銀が円やユーロなどの調達が困難になった場合、日銀と欧州中央銀行(ECB)がそれぞれの通貨でFRBに資金を提供。FRBがそれを受け取り、米銀に融資する流れとなる。協定にはイングランド銀行(英中銀)やスイス国立銀行も参加し、ポンドやフランを供与する。日銀の供与額は最大10兆円で、ECBも同程度。全体の規模は円換算30兆円前後に上る。
この協定、市場関係者にはやや違和感があった。なぜなら、FRBは既に大量の資金供給を実施しており、「米銀の資金繰りは外貨も含めて不安はさほどない」(都銀)と受け止められていたからだ。足元の資金繰りに問題がないとすれば、今後の不測事態に備えた予防的措置となるが、それにしても「FRBが米銀の外貨調達まで面倒を見るのは、過剰な対応に見える」(運用会社のファンドマネジャー)との指摘も出ている。
ドル相場安定の狙いも?
うがった見方だが、今回の協定がドル相場の安定化を狙った可能性もある。一般的に、金融機関の外貨調達は「直接」か「間接」のいずれかになる。金融市場で外貨の流動性が十分なら直接調達し、流動性がたまたま不足していれば為替スワップを使って間接的に調達すればよい。それは市場の状況次第であり、多分に技術的な選択だが、問題は米系金融機関の信用不安が改めて台頭した時に起こり得る。
経営不安が生じた金融機関は与信枠が絞り込まれるため、直接的な外貨調達が困難になる。この場合、為替スワップを使った間接調達への依存度が高まるが、このスワップも利用枠が縮小され、最終的には「ドル売り・外貨買い」による外貨調達を余儀なくされる公算が大きい。
実際、昨秋のリーマン・ブラザーズ破綻以降、米銀はこれに近い状態に陥り、「ドル売り・外貨買い」調達が「ドル安を加速する一因になった」(大手機関投資家)。しかし、FRBが直接外貨を提供すれば、こうしたドル売りは避けられるわけだ。
オバマ政権の危機対策を背景に、足元では米国の金融不安が薄らいでいるが、先行きは予断を許さない。実体経済の悪化が続けば改めて米銀の経営不安が台頭し、資金繰りが厳しくなる恐れがある。あくまで今回のスワップ協定は、こうした危機に備える流動性のセーフティーネット強化が目的だが、副次的な効果としてドル相場の安定につながる側面があるのも明らかだ。